想像力は凶器にもなる セカオワ藤崎彩織さん、執筆と音楽の原点は
4人組バンド「SEKAI NO OWARI」でSaoriとしてピアノを奏でる藤崎彩織さんは作家としても活躍中です。音楽・執筆活動の原点にあるものを聞きました。
ライブ前に必ず
《ピアノの道へ誘い込んだのは、ショパンの「練習曲作品10の4」だった》
小さなアパートに住んでいた5歳のころ、同じアパートの女性がよくこの曲を弾いていました。音大生だったと思うのですが、リズムの速いこの曲を流れるように弾いていて「何て格好いいんだろう」と心をつかまれました。私もこの曲を弾けるようになりたくて、ピアノを習い始めた。音楽活動の原点になった曲です。
憧れつづけ、高校2年生のときにやっと弾けるようになりました。弾けば弾くほど、ダイナミックな曲のなかにピアノ演奏で必要な技巧が織り交ぜられていることがわかる。奥深さに感動します。いまもライブ前に必ず弾いているんです。うまく弾ければ大丈夫だと思える。自分の状態を知るバロメーターになっています。
《映画「明日の記憶」は、相手の言動の背景を想像する大切さを教えてくれた》
(「SEKAI NO OWARI」のボーカル)Fukaseくんに教えてもらって見ました。渡辺謙さん演じる若年性アルツハイマー病の男性が妻(樋口可南子さん)に手をあげてしまうシーンがあります。その後男性は我にかえって泣き崩れる。妻は夫を抱きしめながら「あなたのせいじゃない。あなたの病気がやったことなの」と何度も声を掛ける。この場面が忘れられません。
病気をはじめ、思い通りにいかないときに自分で自分をコントロールできなくなることは、誰しもあります。4月に刊行したエッセー集「ざくろちゃん、はじめまして」(水鈴社)に、産後うつの経験を書きました。私は2017年末に息子を生んでから、女性ホルモンの急激な変化で精神が不安定になった時期がありました。夫に対して敵意がむき出しになり、「どうしてちゃんとこれをしてくれないの?」と責め続けてしまう。〈女性ホルモンに脳みそを乗っ取られました〉と本で表現しました。乗っ取られているときの私は、別人格になってしまったんです。「悲しい」「イライラ」の二つの感情に支配されていました。
産後1年が経った頃から心身のバランスを取り戻しましたが、妊娠、出産、育児の経験を通して、改めてこの映画が教えてくれたことを思い出しました。身近な人、大切な人から傷つくことを言われたときにも、どうしてそうなってしまったのだろうと、相手の背景を想像する大切さを痛感しています。かつての私がそうであったように、相手も自分ではコントロールできないままならなさを抱えているのかもしれません。
想像すること、されること
《桐野夏生さんの小説「残虐記」も、想像力について考えるきっかけをくれた作品だ》
少女監禁事件をテーマにしています。10歳の頃男に誘拐され、1年間監禁されていた少女は救出された後、多くの人から好奇の目にさらされる。監禁されている間はどんな日々だったのか、男に何をされたのか。少女は勝手に想像され、同情されることに嫌気が差し、傷ついてもいた。
人は想像されることによって…
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