大崎事件、5日に高裁判断 弁護団は「事故死」主張 4回目再審請求
鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」の第4次再審請求即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部(矢数昌雄裁判長)が5日、殺人罪などで服役した原口アヤ子さん(95)の裁判のやり直しを認めるか決定を出す。焦点は、新たな医学鑑定などをもとに「男性は事故死だった」とする弁護団の主張に対する判断だ。
確定判決によると、男性は79年10月、酒に酔って自転車事故で道路脇の溝に転落。約2時間半後に近所の住民2人が路上に倒れていた男性を軽トラックの荷台に乗せて自宅に運んだ。その後、原口さんや当時の夫(故人)らが男性を絞殺し、遺体を牛小屋の堆肥(たいひ)の中に埋めたとされた。
確定判決が根拠としたのは、男性を自宅まで運んだ住民2人の供述、先に逮捕された親族3人の「原口さんに犯行を持ちかけられた」とする自白などだった。
第4次請求で弁護側は、救急救命医の医学鑑定と関係者の供述分析を新たな証拠として提示。男性は事故による転落で頸髄(けいずい)損傷を負ったうえに、首を保護しない搬送で悪化し呼吸が停止し、自宅に着いた時にはすでに死亡していた可能性が高いと主張。「生きていた」との住民2人の供述は信用できないとした。
昨年6月の鹿児島地裁の決定は、頸髄損傷の可能性は否定できないとしつつ、確定判決の事実認定を覆すまでの証拠にはならないと結論づけた。弁護側は不服として即時抗告し、住民2人の供述を信用できるなどとした地裁の判断は誤っていると主張。男性が自宅到着時には一人で立てたという2人の供述と、絞殺時は泥酔し前後不覚だったとする確定判決との矛盾についても考慮されていないと指摘する。一方、検察側は新証拠に証拠能力はないとして請求棄却を求める。
原口さんは捜査段階から一貫して無罪を主張。服役後、95年から再審を求め活動し、これまでに再審開始は3回認められたが、いずれも上級審が取り消してきた。1度目の再審請求から28年。原口さんは15日には入院先の病院で96歳の誕生日を迎える。
宮崎市内で1日に記者会見した森雅美弁護団長は「原口さんはいままで大崎事件に振り回され、翻弄(ほんろう)され続けてきた。高裁支部は最高裁に忖度(そんたく)せず、裁判官としての良心にもとづいた判断をして決定を出してほしい」と訴えた。(平塚学)
大崎事件 鹿児島県大崎町で1979年10月、男性(当時42)の遺体が自宅横の牛小屋で発見され、男性の義姉の原口アヤ子さんら3人が殺人容疑などで、原口さんのおいが死体遺棄容疑で逮捕された。一貫して無罪を主張した原口さんは懲役10年の実刑が最高裁で81年に確定。刑を終えて90年に出所した。第1次再審請求は2002年に一審が再審開始を認め、二審が取り消した。2次は一審から全て棄却。3次は17、18年の一、二審が再審開始を認めたが、最高裁が19年に取り消した。4次は22年の一審が棄却して弁護側が即時抗告した。