物流業界の残業規制、悪質業者に流れるおそれ 識者「大手は責任を」
トラックドライバーの労働時間に上限規制が適用される2024年度に向け、労働環境の改善に取り組むための政府の「政策パッケージ」が示された。この問題について話し合う政府有識者会議のメンバーでもある首藤若菜・立教大教授(労働経済学)に見通しを聞いた。
――24年に始まる物流業界への残業規制は、19年の改正労働基準法の施行から5年間の猶予がありました。
「労働時間が短くなると、賃金が減って、人手不足がさらに進むことが強く懸念されている。『5年間あったのに何をやっていたのか』という思いだ。確かに、長時間労働を是正するための法律の枠組みを見直す時間は必要だったが、現場の事業者や荷主は、直前にならないと動き出さなかったということだ。『間に合わないからもっと延ばしてほしい』という声もあるが、現状がだらだら続くだけだ」
「ただ、改善の仕方がわからないとか、荷主が理解してくれないとか、資金面から改善できない、という事業者もある。運送事業者や荷主、消費者が協力しながら良くしていくよう呼びかけていく必要がある」
――政府はまず商慣行を見直すとしています。
「いま現実的に削れるのは『荷待ち』と『荷役』の時間だ。特に何も生み出していない荷待ちを徹底して減らしていくことを荷主も考えないといけない。荷主には、自分の荷物を運んできたドライバーが何時間待っているのかを把握し、目を向けてほしい」
「手作業での荷役はやめて、どうしてもやってほしいのであれば、それなりの割増料金を払うべきだ」
――あと1年足らずで変わるでしょうか。
「24年度になっていきなり変わるとは思っていない。現実的には、労働基準監督署が入り、例えば悪質な荷主に荷待ちや荷役の削減を要請するようなことがないと変わらないだろう。他方で、急いで変えようとしている物流事業者や荷主もいる。全然変わらないところとの二極化が当面は進む可能性がある」
悪貨が良貨を駆逐してきた業界
――変われない事業者からはドライバーが去り、淘汰(とうた)されるのではないでしょうか。
「そうなるといいが、稼ぐた…
- 【視点】
「5年間あったのに何をやっていたのか」。首藤教授のご指摘にまったく同感です。 安倍政権下の働き方改革で残業時間の上限規制が導入されたのは2019年。残業時間の上限は「年720時間」で、違反すれば企業に罰則が科されます。運送業界は荷主の影
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