出血性胃潰瘍で死亡の男性を労災認定 消化器系疾患では異例 労基署
富山市の電気設備工事会社に勤める男性(当時62)が2021年、出血性胃潰瘍(かいよう)を発症して死亡したのは長時間労働などが原因だとして、富山労働基準監督署が5月、労働災害と認定したことがわかった。消化器系の病気で過労による労災が認められるのは異例。国の労災認定の基準が脳や心臓の病気、精神障害に限られている現状への課題を指摘する声もある。
遺族や代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、男性は1986年から技術者として勤務し、2019年8月の定年後も再雇用され、嘱託で働き続けていた。大手ゼネコンから受注した放送局の電気設備工事の現場責任者を務めていたが、徐々に長時間勤務となる日が増え、21年12月に自宅で倒れ、病院に搬送されたが死亡した。
男性の時間外労働は、死亡前の直近1カ月が約122時間、その前の1カ月が約113時間に上った。国が定める労災認定の目安は消化器系の病気にはなく、脳や心臓の病気は「月100時間、または2~6カ月間平均でおおむね月80時間」などとされる。労基署は、男性が現場責任者として、ゼネコンとの打ち合わせや部下への指示、工期や仕様の変更への対応などもあり、長時間労働やストレスで胃潰瘍を発症したと認定した。
消化器系の病気で労災が認められるケースは極めて少ない。国は01年、脳と心臓の病気について労災の認定基準を策定。10年改正の労働基準法施行規則には、精神障害を加えた3種類を、長時間労働や、業務による心理的負担との因果関係が医学的に確立したものとして明記した。労基署の認定業務の迅速化につながり、17~20年度、計2989件の労災が認定された。
一方、これら以外の病気は「その他」と分類されて認定基準がなく、同じ期間中の労災認定はわずか2件。厚生労働省の検討会で5年に1回ほど、追加すべき病気があるかが議論されるが、消化器系は「過去10年ほどさかのぼったが議論になっていない」(同省)。
認定基準がない病気は労災認定のハードルが高いとみられ、労働者や家族らが申請自体を控える事例もあるとみられる。申請しても労基署で労災と認められず裁判で争い、十二指腸潰瘍を発症した貿易会社員の男性をストレスが原因の労災として認めた最高裁判決(04年)がある。
男性の勤務先は朝日新聞の取材に対し、「労災認定の事実確認ができておらずコメントは差し控えます」としている。(松浦祥子、阪本輝昭)
消化器系疾患での労災認定、大きな意義
島田陽一・早大名誉教授(労働法)の話
認定基準のない消化器系の病気で労災が認められた意義は大きい。今後、過労による消化器系疾患についても認定基準が設けられる可能性があり、行政は既に基準のある心臓や脳の病気、精神障害以外でも起こりうることを前提に丁寧に認定業務に当たるべきだ。また、定年後の再雇用は1年更新などと短い場合が多く、その不安定さや賃金の安さが労働者のストレスになるリスクもある。国や企業は「労働力を安く使う制度」となっていないか、働き手の保護策が十分か見つめ直す必要がある。
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