本州最北の村が求める福島の土 官僚は責任押し付け

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編集委員・大月規義
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アナザーノート 大月規義編集委員

 青森県下北半島にある風間浦村。津軽海峡の向こうには北海道が見える、本州最北の村だ。

 5月下旬、東京電力福島第一原発に近い高速道の双葉インター(福島県双葉町)から車で550キロ離れた同村を訪れた。

 車のドアを開けると、おいしい香りが立ちこめた。海岸の岩には特産のフノリが付着し、家々の庭には昆布が干してあった。

 双葉町から出発したのは、約3カ月前のニュースがきっかけだった。風間浦の冨岡宏村長(61)が、原発事故除染で集められた土を再利用する実証事業について、受け入れを検討したいと明らかにした。どんな村なのか。

 人口は約1600人。5割近くを65歳以上が占める。村役場は1936(昭和11)年築の木造2階建て。裏手の公民館も古い。その裏の小学校は、廃校だった。

 主要産業は漁業と観光だ。村内の下風呂温泉からは硫黄泉が湧き、旅館が10軒ほど並ぶ。旅館街の信号が村に一つだけある信号だった。

 漁業者らは「風間浦鮟鱇(あんこう)」をブランド化し、町の経済を支えようと必死だ。しかし、少子高齢化を防ぐことは容易ではない。

 「市町村合併しないと行き詰まるが、『平成の合併』構想で、まとまらなかった」。村商工会の駒嶺剛一さん(73)は過疎化が進む一因を振り返る。

 2000年代後半、東隣のむつ市との合併構想があった。大きな市にのみ込まれる警戒心から、村民は住民投票で反対した。次に、西隣の大間町などとの合併を模索した。今度は大間町に拒否された。電源開発(Jパワー)の大間原発が立つ同町は、多額の原発交付金を「独占」し続けたかった。

 むつ市にも、原発の使用済み燃料を一時保管する施設がある。風間浦村は、原発マネーで潤う2市町に挟まれる。「(村内に)原発関連施設などの誘致の可能性を調査する」。一昨年、冨岡村長は村議会でそう答弁している。

 今年3月、地元の東奥日報が「福島原発の除染土 風間浦村誘致検討」とスクープした。翌日、冨岡村長は記者団に「村の事業に活用できれば村の利益にもなるし、福島県民の応援にもなる」と認め、各紙が追いかけた。

4分の3を「再生」

 除染の土砂は15年から、第一原発がある双葉、大熊両町の「中間貯蔵施設」に集められている。4月末時点で東京ドーム11個分の1347万立方メートルに達した。

 除染土は30年後までに福島県外に運び出し、最終処分する。それが2町が施設を受け入れた条件だった。

 処分量を減らすため、環境省は「除去土壌の再生利用」という事業を考えた。土砂を放射能の濃さによってふるい分け、「1キロ当たり8千ベクレル以下」の危険性が比較的低い土を全国の公共事業などで利用してもらう狙いだ。

 試算では、再利用できる除染土は全体の約4分の3。昨年末、東京の新宿御苑埼玉県所沢市で再利用の実証事業をしようと試みた。だが、周辺住民や自治体が反対し、計画は凍結している。

 約5年前は福島県の南相馬市二本松市で、利用できないか検討したことがある。そのときも住民の反対で撤回した。

 唯一、実証事業を受け入れたのが飯舘村だ。

 これには事情がある。

 飯舘村の帰還困難区域につい…

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