藤井聡太史上最年少名人、七冠に寄せて 作家・小川洋子
作家の小川洋子さんに、史上最年少で名人・七冠となった将棋の藤井聡太さんについて寄稿いただきました。
藤井聡太、という天才と同じ時代に生きている幸運を、一体、何ものに感謝したらいいのだろう。
谷川浩司十七世名人と、羽生善治九段を超える棋士が誕生したにもかかわらず、いつもの対局と同じく、決着がついた瞬間、盤上に漂っていたのは静けさだった。周囲の人々が興奮し、シャッターを切ったり、歓声を上げたり、くす玉を割ったりしている中、片方の棋士は負けを認め、もう片方は深く頭を下げていた。二人の間に並ぶ駒たちは、ここに至るまでの長く尊い思索の跡を刻んでいた。勝者は自分が成しとげたことの意味になど気づいていないかのような冷静な目で、その軌跡をなぞっていた。
藤井聡太が史上最年少、十四歳二か月でプロ棋士になった時、人々は彼がやがていくつものタイトルを獲(と)り、名人になるだろうと予想した。既に天才でありながら、更なる高みを期待されていた。それがどれほどの重荷か、本人にしか分からない。
十四歳といえばまだ少年であ…