美化され、距離を置いた 現場にいた医師、15年後に語る秋葉原事件
東京・秋葉原で15年前の日曜日、歩行者天国にトラックが突っ込み、17人が殺傷された。加藤智大(ともひろ)・元死刑囚の刑は昨年7月に執行されたが、事件に直面した人たちは、6月8日を胸に抱えながら、それぞれの15年を生きてきた。
徳島市の医師、西條良香(よしか)さん(54)はあの時、専門とする産婦人科の研究会で秋葉原にいた。
叫び声が聞こえた。交差点に10人ほどが血だらけで倒れていた。「ドクターはいませんか」
右胸から出血する男性に声をかけた。傷口を押さえたが止まらない。ガーゼや包帯はない。
量販店から店員がタオルを持って来てくれた。結んでひも状にし、巻き付けて止血した。体の態勢を変え、心臓などに血液が巡るようにした。約1時間半、何人もの応急処置をした。必死だった。
携帯電話で周囲を撮影している人や、見ているだけの人がいて、悔しい気持ちになった。一方で介抱したり、応急処置を手伝ってくれたりする人もいた。後になり、7人が亡くなったと知った。
事件と距離を取るように
事件直後、メディアに好意的に取り上げられた。勤務先に「素晴らしい医師」と手紙が届き、友人から称賛のメッセージを受けた。「別に特別なことをしたわけではない」。美化され、「事件で応急処置をした医師」という印象がついて回ることが苦しかった。全員は助けられなかったという思いもあった。
事件を語らなくなった。元死…
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