進行したがんの患者の体重が大きく減る状態で、死亡にも深くかかわっているとされる「がん悪液質」を抑える手がかりを、理化学研究所などのグループが見つけた。研究がうまく発展すれば、将来的には抗がん剤とは別の、患者の生存期間を延ばす新しい治療につながるかもしれない。
がん悪液質は、食事量を減らしているわけでもないのに全身の筋肉が減り続け、通常の栄養サポートでは回復できないといった場合をさす。がんの種類によっても起こるリスクは異なるものの、進行したがん患者の約5~8割にみられるといった報告がある。体重が大きく減ることを通して、亡くなることにもつながりやすい。
がんが生じたり、転移したりしている臓器の機能が損なわれるのとは別に、がんがあることで何らかの作用が生じ、筋肉の分解などが進んでいると考えられているが、わからないことも多い。
生存率が10倍に
理研生命機能科学研究センターの岡田守弘研究員(生理遺伝学)たちは、がん組織から何らかの全身を衰弱させる物質が出ているのではないかと考えた。そこでショウジョウバエの幼虫段階で、将来目になる組織だけで、がん遺伝子を発現させた。発生したがんは転移したり大量に増えたりはせず、目にとどまっていたが、80%以上の幼虫は成虫に育つことなく死んだ。
このがん細胞からどんな物質が分泌されているのか、遺伝子の発現を網羅的に分析すると、20種類のたんぱく質が見つかった。
このたんぱく質ががん細胞でつくられないように、一つずつ操作して調べると、「ネトリン」というたんぱく質を抑えたときに、抑えないときと比べてショウジョウバエが成虫にまで育つ確率が約10倍に高まった。がん細胞そのものの増殖には影響がなかった。抗がん作用とは無関係に、ネトリンを抑えることでショウジョウバエの生存率を高めたことになる。
からだの中でどう作用
ネトリンは人間にもあり、神…