ようやく戻った、大相撲取材の「日常」 力士のリアルは対面してこそ

東京スポーツ部 松本龍三郎
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 ようやく、大相撲の取材現場に「日常」が戻ってきた。

 5月に東京・国技館で開催された夏場所新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年7月場所以降ずっと続いたオンライン取材が終わり、「リアル」で力士たちと対面する形に移行した。

 約3年ぶり。パソコンの画面を通した取材にすっかり慣れてしまっていた。だからこそ余計に、力士の息づかいや感情の揺れ動きが新鮮に感じられた。

 結びの一番を終え、支度部屋に戻ってきた横綱照ノ富士の額からしたたる汗。取材には応じず、痛そうな足をかばいながら帰路につくカド番大関貴景勝の姿。大関昇進に挑戦する身なのに、消極的な相撲で勝利した関脇霧馬山の気まずそうな雰囲気――。

 オンライン取材では分からないことが、現場にはたくさんあると再認識した。

 コロナ禍前の取材環境に戻すタイミングは、他競技と比べると遅かった。そこには、角界特有の事情があった。

 力士の大半が相撲部屋で生活をしているため、集団感染が起きやすい。そのうえ、糖尿病などの持病を抱える力士もおり、重症化のリスクがつきまとう。20年5月には三段目力士の勝武士さんが新型コロナに感染し、28歳で亡くなった。

 そんな状況のなかで、力士をはじめとする日本相撲協会員が一丸となり、感染予防や行動制限などを徹底。出稽古の解禁、巡業再開と段階的に制限を緩和してきた。

 夏場所でリアル取材が再開されたとはいえ、原則的には「ミックスゾーン」と呼ばれる場所で、記者が力士を囲むスタイルだ。支度部屋での取材は大関と横綱に限られた。

 会心の白星を付け人たちと一緒に喜んだり、負けた悔しさから風呂場で大声を上げたり、ときには、答えたくない記者の質問を無視したり。支度部屋にあふれる喜怒哀楽は、大相撲取材の醍醐(だいご)味と言える。記者に求められるのは、それらを逃さぬ目だと私は思う。

 「相撲勘」という言葉がある。土俵で相撲をとる実戦感覚のことを指す。

 テレビ中継では見えない力士の一挙手一投足を観察し、決して多くはないコメントや表情などから胸の内を読み解く。そんな記者の「取材勘」を、支度部屋取材が全面的に再開されるまでに取り戻さなければ。担当記者として、さらなる精進を誓った特別な場所になった。(東京スポーツ部 松本龍三郎)

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