白壁の町並みに金魚ゆらゆら 時が止まったような「江戸風情」いまも

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奥村智司
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 とぼけた顔の「金魚ちょうちん」が軒にゆらゆらと揺れる山口県柳井市の白壁の町並み。瀬戸内海の港町として栄えた中世の町割りが残り、江戸後期の町家が続く。国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された区画の通りは200メートルほどとわずかな距離だが、時が止まったような錯覚をおぼえる空間がそこにある。

 膨大な作品群の中で、知られざる一編に数えられるのではないか。松本清張の「花実(かじつ)のない森」という長編ミステリーを読み、興味をかき立てられた。主人公が「幻の女」を追ってたどり着くラストの舞台が柳井だ。

 白昼夢を思わせるその描写にいわく――。岡山の倉敷に負けない土蔵造りの白壁の商家が並び、店には歌舞伎に出てくるような「囲いのある帳場」が。そこに座る商人は「明治時代からその慣習(しきたり)を受けついでいるような格好」をしている。そして、「日本に取りのこされたこの町」を「ガラスのケースですっぽりとかぶせて保存しておきたい」というのだ。

 小説が書かれたのは1960…

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