人によって異なる遺伝情報(ゲノム)を治療や予防に生かすと同時に、差別が生じないようにすることを定めた「ゲノム医療法」が9日、成立した。遺伝情報は、将来の病気のリスクなどもわかる「究極の個人情報」と言われる。なぜ今、法律が必要なのか。ゲノムの利用にはどんな懸念があるのか。
千葉県に住む30代の男性は2019年、県がんセンターで遺伝子検査を受けた。家族にがんが多い「がん家系」だったため、周囲に勧められた。その結果、大腸がんなどになりやすい「リンチ症候群」と診断された。
ショックだったが、それ以降、年に1回は大腸と胃の検査を受けることを心がけている。そのおかげもあり、2年前に大腸がんが見つかったときは、ごく早期の段階で、開腹せずに内視鏡で切除できた。
トラブルは昨年、大腸がん切除の医療費の支払いを保険会社に求めたときに起きた。
保険会社からセンターに連絡があり、対応した横井左奈・遺伝子診断部長によると、遺伝子検査の詳しい結果や、家族の病歴につながる情報などを尋ねられたという。
がん家系と伝えたのに
生命保険協会と日本損害保険協会は昨年5月、「遺伝情報の収集・利用を行っていない」とする文書を公表している。男性によると、保険加入の際には、がん家系であることなどを伝えて契約したという。協会の文書に反し、保険会社は遺伝情報を使おうとしたのではないか。支払いで不利益が出るおそれがあったのではないか――。「不信感と憤りを感じた」と男性は振り返る。
男性と横井さんは相談し、セ…
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- 【視点】
この法律を求めていたがんの患者さんは以前、取材に以下のようなお話をしてくれました。 《仲間がほしくて患者会に行きました。「遺伝性です」というと、「かわいそうに。お子さんはいるの?」と聞かれ、「いいえ」と答えると、「よかったわね」と言われまし
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