クマ2匹から挟み撃ちも九死に一生 演歌で鍛えた声量、4年ぶりに
北海道や東北など、各地でクマの出没が相次いでいる。福島市内でも今月、男性(74)が自宅敷地内で親子とみられるクマ2匹と遭遇し、襲われて6針縫うけがを負った。挟み撃ちにされた「絶体絶命」の危機を、どう逃れたのか。男性が当時を振り返った。
JR福島駅から車で30分ほど。果樹園と住宅が点在するのどかな地区に、男性宅はある。ここで70年以上暮らし、いまは一人暮らしの身だ。
5日午後4時半ごろ。男性が母屋の勝手口から屋外に出て、約4メートル離れたトイレのドアノブに手をかけようとした時だった。突然、トイレがある建物の脇から黒い物体が音もなく現れた。「ぬいぐるみ?」「にしては大きすぎる」。目が合った。体長約1メートルのツキノワグマだった。
静かに向かってくるのを、持っていた杖で追い払おうと試みたが、今度は建物の逆側から、半分ほどの体長の子グマが現れた。親子とみられるクマに両側から挟み撃ちにされ、思わず後ろに倒れ込んだ。
親グマが爪を立てて覆いかぶさってきた。額を2カ所引っかかれ、両手首にも3カ所、爪が当たった。「死ぬかもしれない」。そう感じた時、とっさに言葉にならない大声が出た。
「あー! あー!」
コロナ禍前までは、近所の仲間と月に1回程度、カラオケに行くのが楽しみだった。おはこは、吉幾三さんや五木ひろしさんの演歌。
後ろに転倒、そこに…
それ以来、約4年ぶりに出した大声だった。この声に驚いたとみられる子グマが茂みに隠れ、それを追って親グマも去った。出現から、20秒ほどの出来事だった。
発した声は、約100メートル先を散歩していた男女3人にも届いた。「ただごとではない」と駆けつけてくれ、救急車を呼んでくれた。男性は病院に運ばれ額を6針縫ったが幸い大事には至らず、その日のうちに帰宅できた。
この日以降、男性はトイレに行く際には音を出してから外に出たり、クマよけの鈴を鳴らしたりするのが日課となった。寝る前には、クマと遭遇した場面がフラッシュバックする。
「タイミングがずれていたら、誰にも気付かれなかったかもしれない」。昔に比べて、クマが人里に頻繁に下りてくるようになったと感じる。昨年も近所で、クマに襲われけがをした人がいた。もし、今回襲ってきたのがもっと大きなクマだったら――。「完璧にやられていたと思う」
「あー! あー!」
男性は、大声を出したことで…