木頭杉の間伐材スピーカー 未来に奏でる音色

杉田基
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 豊臣秀吉が築いた大坂城にも用いられたという徳島県が誇る木頭(きとう)杉。その間伐材を活用した手のひらサイズのスピーカー「KINOTE」(キノオト)が注目されている。電源はないのに上部の穴にスマートフォンを差し込むだけで、板を重ね合わせた階段状の間から、機械音を抑えた柔らかな心地よい音色が広がる。

 手がけるのは2017年設立の「Wood Head(ウッド・ヘッド)」だ。高知県境に近く山々に木頭杉が広がる徳島県那賀町木頭出原地区にある。間伐材による土産物などの箸も製造し、販売している。

 社長の西田靖人さん(56)によると取引先から約2年前、「木製スピーカーが作れないか」という依頼がきっかけだった。新たな商品開発を考えていたころで引き受けることにした。

 しかし同様のスピーカーは市販されていた。ただ手作りのため1個数万円もする高額品でもあった。そこで差別化を図ろうと「未来に奏でる木の音」をコンセプトに、ふるさと旧木頭村(現・那賀町)発で環境にも優しく、手軽に持ち運べ、何よりも量産できる単純な作りで良質の音が出せる商品を目指した。

 開発は同じ旧村出身の企画部長・松本恭典(やすのり)さん(44)が担当。「固定概念に縛られたら発想が出てこないし、まねしてしまう」と既存商品は参考にせず、半年間かけて数十の試作を繰り返した。レーザー加工機で切断した幅5ミリ程度の板を、音が広く響き渡るよう階段状に貼り合わせるなどして独自商品を仕上げた。

 4種類あり、オペラ劇場の舞台のような「OPERA(オペラ)」▽地元の渓谷に見立てた「CANYON(キャニオン)」▽町内を流れる那賀川の水面の波紋をイメージした「MINAMO(ミナモ)」▽地元に春を告げるヤマザクラをかたどった小箱の「NAGOMI(なごみ)」。

 高さ4・5~8・5センチ、幅13~18・5センチ、奥行き7~9センチ。いずれも持ち運びやすい大きさだ。オペラとなごみについては木頭杉以外の地元材も有効活用したいとの考えで、ヒノキの間伐材を使っているという。

 松本さんのお薦めは「オペラ」で聞くジャズやクラシック。より硬質の材質からクリアな音質が楽しめるという。「商品が生まれた物語に思いをはせてもらい、地方の声も届けたい。コンセプトはそういう意味を込めている」と話す。

 昨年5月から販売すると、町のふるさと納税返礼品にも選ばれて約300個が音楽愛好家らの手元に届けられているという。

 西田さんは地元の建設会社役員。地域活性化を目指す会社の方針でヤマザクラの植樹にも関わり、林業の衰退で多くの山林が放置されて荒れた現状を間近に見てきた。それだけに、ふるさとの木頭杉の間伐材の活用への思い入れは深い。「山の荒廃は土砂崩れや河川氾濫(はんらん)などの自然災害の原因にもなっている。父や祖父が植えた木を無駄にしたくない」と意義を話した。(杉田基)

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 Wood Head 従業員9人。スピーカーは4種類で1個5500~8800円(税込み)、商品紹介と販売は同社ホームページ(https://woodhead.shop-pro.jp/別ウインドウで開きます)で。徳島県那賀町木頭出原イシノモト28の1。電話0884・68・2320

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