苦しい時代にこそ偉大な作品が生まれる 飯守泰次郎さんの「遺言」
ワーグナーの指揮で世界的に知られた飯守泰次郎さんが亡くなりました。生前、取材を重ねてきたクラシック担当の編集委員が、その功績と飯守さんの「遺言」というべき言葉をつづります。
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80歳を超えてなお、プロからもアマチュアからもここまで頼られ、共演を熱望された指揮者はそういないと思う。この人の中にみなぎる、何か得体(えたい)の知れない芸術の権化のようなものに、少しでも触れたい。そして、できるならば少しでもその魂を、自分たちのものとして受け継ぎたい。15日に82歳で亡くなった飯守泰次郎さんを迎える現場はいつも、そして最後まで、そんな気迫に満ちていた。
名実ともに、ワーグナーの権化のような人生だった。約20年もの間、ワーグナーの総本山たるドイツのバイロイト音楽祭で助手を務め、その全作品を血肉化した。ワーグナーを振る前は「いつも緊張して、水をがぶがぶ飲んでいる」と語った。「彼の音楽はいつも、何かを壊して前へ進むことを要求してきますから」
2014年、新国立劇場の芸術監督に就任。「日常の暮らしのなかで、自然とオペラに足が向く。そんな文化を日本にもつくりたい」と夢を語っていた。ワーグナーのひ孫、カタリーナ・ワーグナー演出の「フィデリオ」上演も実現。時流に迎合せず、自ら評価を下す成熟した観客が日本にも育つように。そんなメッセージとともに、4年の任期を終えた。
その指揮は、決してわかりや…
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