第3回何度も聞いた「仕事がほしい」 認知症の人が働く工房で作る夢の製品

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石川春菜
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 シュッ、シュッ、シュッ――。

 よく晴れた夏の日。クマゼミの鳴き声が降り注ぐ中、屋外の日陰に並べられた机の上で、一心に木製のパーツのやすりがけをする人たちがいた。

 集中できなくなったら、立ち上がって、歩き回ってもいい。できることをやればいい。

 静岡県富士宮市にある小さな木工房「いつでもゆめを」。従業員14人のうち、10人は認知症の人だ。

 稲葉修さん(72)が、2013年12月にオープンした。まもなく10周年を迎える。

 人によって、できる仕事には違いがある。物の長さをそろえるのが難しかったり、集中力が続かなかったり。でも、使ったことがない工具を使いこなすようになるなど、新しくできるようになることもある。

 「笑顔が増え、会話が増え、元気になる。表情が変わっていくのを見るのが楽しいんです」

 従業員の1人、50代の男性は昨年、若年性認知症と診断された。

 一般企業で夜勤や残業もこなしていたが、退職することになった。それからは、何もせずに家にいる日が続いたという。

 市役所の紹介で、半年前から木工房に通うようになった。久しぶりの仕事。久しぶりの人との会話。最初は人見知りして黙々と作業をしたが、徐々になじみ、今では冗談も言い合うようになった。

 最大で週2回、計6時間。時給は1千円。給料は、一般企業で働いていたころには遠く及ばない。

 それでも「ここには人とのつながりがある。だから、もっと長く働きたい」。

 木工房では、これまで20人以上の認知症の本人が働いた。「働きにいく」という思いが支えになり、居場所になる。

 「もっと仕事ないの?」。そう言って、休みの日にも工房まで出かけてくる人もいるのだという。

 稲葉さんは、もともとは認知…

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    天野千尋
    (映画監督・脚本家)
    2023年9月19日14時0分 投稿
    【視点】

    「社会とつながる場になる」「笑顔が増え、会話が増え、元気になる。表情が変わっていくのを見るのが楽しい」仕事があることは、認知症の症状の進行にもきっといい影響があるでしょう。 事業の社会的意義はとても大きい反面、いちばんの課題はビジネスとして

    …続きを読む