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 五反田駅の西口から徒歩3分。地上11階、地下1階建てビルの計7フロアに、中小企業向け会計ソフトなどを開発、販売する「freee(フリー)」が入居する。

 代表の佐々木大輔さん(37)が麻布十番(港区)のマンションで2012年に起業、14年6月に五反田に移転し、従業員が百人を超えた翌年、同じ五反田で再移転した。「スタートアップに適度なサイズのオフィスビルが多く、新幹線の品川駅が近いなど交通の便もいい」と佐々木さん。五反田にこだわる理由だ。

 目黒川を渡って徒歩約5分のビルには、約20個のブースにこもり、頭上のカメラをみつめながら黙々と料理を作る人たちがいた。調理法を短時間で見せる動画が人気のサイト「クラシル」の運営会社「dely」は、2年前に渋谷から移転。「山手線沿線なので主な取引先への移動もスムーズ。大量に料理するので、毎日ゴミ出しが可能なことも魅力だった」と広報の田中聡子さん(26)は説明する。

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 五反田がベンチャー企業を引きつける魅力は何と言っても賃料の安さだ。主にベンチャー企業を対象にオフィス移転仲介などを手がける「ヒトカラメディア」によれば、渋谷が駅から徒歩10分の物件で1坪(約3・3平方メートル)あたり2万5千円が相場なのに対し、五反田なら駅から徒歩2分で1万5千円の物件がある。この2年間で同社の仲介だけで約25社が五反田へ移ったという。

 「ご近所さんで仲が良い」と五反田の企業関係者は口をそろえる。職住近接、そして会社同士の距離の近さが特徴的だ。

 太陽光発電など再生可能エネルギーの事業者と利用者を仲介する「グッドフェローズ」は五反田で創業して10年目。代表取締役の長尾泰広さん(38)は「六本木などと比べ閑静でいい意味で落ち着いた街なので、地に足がついている感じがする」と五反田に住み続けるほか、3キロ圏内に住む社員に家賃補助を出す。

 freeeも会社から2キロ以内に限って家賃補助を支給している。昨年入社した定田充司さん(33)も三軒茶屋から移り住んだ。「風俗街は駅東側のごく一部で、家族連れでも気にならない。目黒川の桜など環境もいい。駅周辺にスーパーなど生活に必要なものがまとまっていて、安くておいしい飲食店が多いのは若い社員にはありがたい」

 昨年10月には約25社が品川区立の義務教育学校「日野学園」に出向き、「働くこと」をテーマに中学生の質問に答える合同の職業教育を実施した。広報担当者同士も企業PRのノウハウや人脈を紹介し合う。イラスト作成や作曲など個人の技術を売り買いするサイトを運営する「ココナラ」広報の古川芙美さん(35)は「低いビルが密集しているからご近所で集まりやすい。新しい業界でもあり『共に成長する同志』という感覚が新鮮」と話す。

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 丘陵地に囲まれた谷地の五反田。ここに勤める社員たちは2年ほど前から「五反田バレー」と呼び始めた。グーグルやアップルなど世界的なIT企業が拠点を構える米国の「シリコンバレー」に重ね、さらなる飛躍を誓う意味も込める。

 「谷」という偶然だけではない。実は五反田には昔から、ベンチャーが集まる理由があった。誰もが知っている世界的な企業も、創業の足跡を残していた。

(吉野太一郎)