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 ◆伝統野菜を研究・大竹道茂さんが推す

 ◇寺島ナス 栗のような香り

 東京版の企画「東京150年・農業編」で、江戸東京野菜を取り上げた。野菜それぞれに宿る物語や作り手の思いを知ることができた。でも、肝心の野菜をよく味わっていない。取材で知り合った江戸東京・伝統野菜研究会代表の大竹道茂さん(74)と一緒に食べに行くことにした。

 案内してくれたのは、東京メトロ半蔵門線押上駅(墨田区)から徒歩3分の「押上よしかつ」。入り口に「江戸東京野菜」と記されたのぼりが立っている。

 「江戸東京野菜をはじめ、都内で採れた食材を使った料理が味わえる店だよ」。大竹さんの説明を聞きながら店内に入ると、棚に置かれた「江戸東京野菜」というタイトルのレシピ本が目にとまった。店主の佐藤勝彦さん(50)に聞くと「好きが高じて出版しました」。それぞれの野菜の歴史から栽培方法、形状や色の特徴なども記されている。江戸東京野菜への傾倒は、筋金入りだ。

 最初の乾杯で頼んだのは「練馬金子ゴールデンビール」。練馬区で明治時代に育成された国産初のビール麦を使ったものだ。「東京で生まれて受け継がれてきたとして、江戸東京野菜に参考登録されている伝統作物がある。この麦がその一つ」と大竹さん。とろりとして香りが強い。飲むと口当たりはまろやかで、すっきりとした味わいだ。コップの底に酵母の粒が残るのも特徴だ。

 漬物が運ばれてきた。早稲田ミョウガの甘酢漬け、渡辺早生(わせ)ゴボウのこうじ漬け、ごせき晩生(ばんせい)小松菜の浅漬け。江戸前のカマス、マアジ、スミイカの刺し身には、赤ジソの若芽の紫芽(むらめ)、奥多摩ワサビ、きざんだ馬込三寸ニンジンが添えられている。どれも江戸東京野菜だ。

 魚介類を使った料理に鮮やかな彩りや香りを添える紫芽などの「足立のつまもの」は幕末ごろに栽培が始まったそうだ。「直径約1センチの本葉が2枚出たところでハサミの先で刈り取って収穫するなど、農家の細やかな栽培技術が必要。東京産にこだわる料理人も少なくないんだよ」。甘酢仕立ての早稲田ミョウガはぴりっと辛みが利いて、ビールが進んだ。

 「江戸っ子は初物を早く食べることを自慢し合った。『うまかったねぇ。あれ、まだ食べてないのかい』ってね。収穫が少なかったり期間が短かったりするのもあるので、出た時にすぐ食べないと終わっちゃうこともあるよ」

 野菜講座を聞いていると、佐藤さんが「栗のような香りがするナスだよ」と運んできた。寺島ナスの揚げびたしだ。寺島ナスは小ぶりだが皮が厚く、身が詰まっている。大きくザクザクと切って油で揚げ、亀戸ダイコンのおろしをかけた。内藤トウガラシで作った七味もついている。「寺島ナスももう終わりだな」と大竹さんがしみじみと言った。「野菜の多くはスーパーマーケットに一年中売られていて、旬を感じるのが難しくなっている。江戸東京野菜は季節限定。産地や農家に思いをはせながら食べてほしい」

 締めはもんじゃ。緑の鮮やかなアシタバ入りのもんじゃを注文。テーブルに備え付けられた鉄板でつくり、小さなへらを使って口に運ぶ。アシタバの独特の苦みとコーンの甘さが絡んでおいしい。「これから冬のものが出回る。農家に見に行くのが楽しみだ」。野菜を追い続ける思いを教えられた。

 (山田知英)

 ●押上よしかつ(電話03・3829・6468)

 住所:墨田区業平5の10の2

 営業時間:17:00~24:00(入店終了は22:30)、日曜・祝日はランチ11:30~14:00(ディナーは予約制)

 定休日:不定休

 夜の平均予算:4千~5千円

JAで培った人脈、生産者増やす

 大竹さんは元JA東京中央会の職員。1970年代から整った大きさで作りやすい交配種の導入が進み、個性的な伝統野菜(固定種)を栽培する生産者が減少し始めたことに危機感を持つようになった。

 89年、栽培状況や種の有無を調べると、篤農家が代々受け継いで大切に育ててきた練馬ダイコンや馬込半白節成キュウリなどの伝統野菜の種が保存されていることがわかった。残されていた種を分けてもらい、伝統野菜の栽培を希望する生産者を探して栽培を依頼した。「江戸東京野菜復活の第一歩だった」。都内50カ所に、その地の農業の歴史や特産物を紹介する「説明板」を設置すると地元でまちおこしなどの活動につながった。

 JAを退職後、培った人脈を生かしてさらに栽培農家を増やして野菜づくりを広げ、小学校を回って児童に栽培方法を教える。

「伝統野菜は、食べることで継承されていく。遠くから取り寄せて食べるのではなく、その地へ行って食べるもの。江戸東京野菜も東京で食べてもらいたい食材。そのためには東京で作らないといけない」

 江戸東京野菜に関する情報や自身の活動を日々、ブログ(http://edoyasai.sblo.jp/)で発信している。

代表的な江戸東京野菜のおいしい食べ方(『江戸東京野菜 図鑑篇』から)

 ●金町コカブ

 葉とともにみそ汁に入れ、丸ごと味わう生産者も。白い根は皮が薄く、少し厚めに切ってハムなどを挟んでオードブルにするなど生食がいい。煮くずれしにくいので煮物にも。

 ●馬込三寸ニンジン

 シチューやカレー、煮物のほか薄切りや千切りを湯がいてサラダにしてもおいしい。ぬか漬けもおすすめ。葉はかき揚げに。

 ●滝野川ゴボウ

 乱切りにして、ヒラタケや赤トウガラシと炒めてだし、みりん、砂糖などで煮るきんぴらは定番。ショウガのみじん切りを入れて最後にみそで仕上げるのも。

 ●シントリ菜

 葉全体を味わえる。根元までやわらかく、火を通してもシャキッとしていて、緑色が美しい。さっとゆでて、豆腐を鶏がらスープで煮立ててあんを作り、シントリ菜を入れて一煮立ちさせて中華風に。みそ汁の具や辛子あえも。

 ●砂村一本ネギ

 みじん切りにしたネギにみそとかつお節を混ぜた「ネギみそ」は、おにぎりの具や酒のつまみに。農家のおすすめはネギと油揚げのおつゆ。ネギを3センチぐらいの大きさで斜めに切り、短冊状の油揚げとともにだし汁で煮てしょうゆで味付けする。