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 「脱サラして舞鶴に戻り、実家のカキ養殖を継ぎたい」。木製家具のデザイナーだった夫が2016年4月、急に言い出した。妻は悩んだ。次男は生まれたばかり。長男もまだ2歳。せめて子どもが小学校に入るころまで、環境は変えたくない。迷うこと1週間。ついていく決心をした。

 妻は、移住を切り出されてからの日々を3コマ漫画やイラストに。ちょっと笑える瞬間を描いてインスタグラムに投稿を続けると、子育て世代の共感を呼び、フォロワーは9万7千人台に増えた。出版社から声がかかり、昨年9月にまとめたのが「たのしいことを拾って生きる。」だ。

 妻は岡山茉莉さん(31)。埼玉県所沢市の実家で暮らし、アパレルショップで働いていた。

 舞鶴市に移り住む決め手となったのは、夫の拓也さん(36)が渡してきた計画書。生産者の顔が見えるカキ養殖をどう進めるかが書かれていた。「ここまでまじめに考えてのことなら」と受け入れた。そして前向きに考えた。「家族みんなでいればどこだって楽しいはず」

 その年の暮れ、一家は舞鶴に引っ越した。夫の実家で暮らしながら、家探しを続けた。17年夏、これだと思う場所を見つけた。目の前は舞鶴湾、裏は山。クマやサルが出る環境は新鮮だった。地元で築100年近いのではないかとも言われる古民家が立っていた。

 1階は約100平方メートルと広い。さらに屋根裏部屋もある。5年以上は空き家になっていて中はぼろぼろだが、しっかりしたはりがあった。「初めて見たときはだれが住むんだろうって思った」というが、夫婦で居間や床を解体。壁板も張り替えた。屋根裏部屋を作業場にし、壁を取り除いて広いリビングをつくった。

 茉莉さんはもともと美術の先生志望で、日常の楽しかったことをイラストで描くのが好き。暮らしぶりが思い切り変わるなら、それも描いておこうと思った。息子を風呂に入れるとき、食卓でのやり取り、布団のなかでの会話のなかで、思わず笑ってしまったことを題材にした。

 投稿を見た人の反応は「ほっこりして子育てが楽しくなった」「うちの子も同じことしてる!」など。フォロワーが10万人に近づき、「舞鶴市の人口が約8万人だと考えるとびっくり」と笑う。

 出版社から声がかかったのは17年秋。「すてきなイラストですね」と言われた。茉莉さんは「SNS上のイラストが山ほどあるなかで、気づいてくれてうれしかった」と振り返る。

 書籍化の打診にはすぐに応じた。「子育てしながら孤独を感じている人や、移住しようか迷っている人は多いはず。そんなときにもクスッと笑ってもらいたかった」(中山直樹)

たのしいことを拾って生きる。 夫が突然、舞鶴で実家のカキ養殖を継ぎたいと言い出す。当時9カ月と2歳の息子2人を連れて移住し、そこでの暮らしを3コマ漫画で紹介。田舎での子育て中のちょっと笑える瞬間を描き、インスタグラムに投稿。それをまとめて出版した。

大和書房・税込み1404円

 おかやま・まり 埼玉県所沢市生まれ。2016年12月に所沢から舞鶴市に移住。古民家を改装して夫(36)と5歳、3歳、7カ月の息子3人と暮らす。家業のカキ養殖を手伝い、野菜栽培にも取り組む。インスタグラムでまりげ(@marige333)の名前で日常生活を描いている。