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 人種(じんしゅ)や民族(みんぞく)、宗教(しゅうきょう)などの違(ちが)いから相手(あいて)への憎(にく)しみをあおるヘイトスピーチ(憎悪表現〈ぞうおひょうげん〉)が、日本で広(ひろ)がっています。国連人種差別撤廃委員会(こくれんじんしゅさべつてっぱいいいんかい)は8月、日本政府(せいふ)に対し、法律(ほうりつ)による規制(きせい)などで毅然(きぜん)と対処(たいしょ)するよう勧告(かんこく)しました。国連委は、日本のどこを問題視(もんだいし)したのでしょうか。

 ■デモ、在日外国人に「殺すぞ」

 国連人種差別撤廃委員会は、「人種差別撤廃条約(じょうやく)」に加入(かにゅう)している国々が、条約を守っているかどうかを調べる。18人の専門家(せんもんか)が各国の状況(じょうきょう)を調査し、是正(ぜせい)が必要だと判断(はんだん)すれば、改善(かいぜん)を求める勧告(かんこく)を出している。

 1995年に条約に加入した日本についても、定期的(ていきてき)に状況を調べてきた。そして今年8月29日、ヘイトスピーチについて、きちんと対処することや法律で規制することなどを勧告する「最終見解(さいしゅうけんかい)」を公表(こうひょう)した。

 日本では最近、東京や大阪を中心に在日韓国(ざいにちかんこく)・朝鮮人(ちょうせんじん)を中傷(ちゅうしょう)するデモが広がっている。

 在日外国人(がいこく)への中傷がネット上にとどまらず街頭(がいとう)での宣伝活動(せんでんかつどう)として現(あらわ)れたのは2008年ごろ。警察庁(けいさつちょう)は09年、国内外(こくないがい)の警備情勢(けいびじょうせい)をまとめた報告書(ほうこくしょ)で初(はじ)めて取(と)り上(あ)げた。「在日特権(とっけん)を許(ゆる)さない市民(しみん)の会(かい)」(在特会)が代表的(だいひょうてき)な団体(だんたい)だ。市民グループの調査によると、ヘイトスピーチをともなうデモや街頭での宣伝活動は昨年1年間で360件以上あった。最近(さいきん)は地方(ちほう)に拡散(かくさん)しているという。

 今回(こんかい)、委員たちは、日本の人権NGOが合同(ごうどう)で開いた非公式(ひこうしき)ブリーフィングで、デモのビデオを見た。在日韓国・朝鮮人に向けて、「殺(ころ)すぞ」「日本から出て行け」などと叫(さけ)ぶデモの様子(ようす)が放映(ほうえい)された。「殺す」という表現まで使われていることに委員たちはおどろき、デモを警備する日本の警察(けいさつ)については「(ヘイトスピーチをする)加害者(かがいしゃ)たちに付(つ)き添(そ)っているかのようだ」という意見(いけん)も出た。

 勧告では、「デモの際に公然(こうぜん)と行われる人種差別などに対して、毅然と対処すること」を求めた。また、ネットを通(つう)じてヘイトスピーチが拡散している状況に懸念(けねん)を表明(ひょうめい)。「メディア上でのヘイトスピーチをなくすために適切(てきせつ)な措置(そち)をとること」も求めた。ヘイトスピーチにかかわる官僚(かんりょう)や政治家(せいじか)に適切な制裁(せいさい)を講(こう)じるよう促(うなが)したほか、ヘイトスピーチの法規制(ほうきせい)や人種差別撤廃法の制定(せいてい)も求めた。

 ヘイトスピーチを巡(めぐ)っては、国連規約(きやく)人権委員会も7月、日本政府に、「差別をあおる宣伝活動の禁止(きんし)」を求めている。

 ■自民党が議論を開始

 日本政府に勧告が出された背景(はいけい)には、日本と主要国(しゅようこく)との間で現状(げんじょう)の差(さ)が大(おお)きいことがある。

 欧州(おうしゅう)は、ヘイトスピーチを厳(きび)しく取(と)り締(し)まる傾向(けいこう)が強い。かつてユダヤ人らの大量虐殺(たいりょうぎゃくさつ)を許したドイツでは、刑法(けいほう)に「民衆扇動罪(みんしゅうせんどうざい)」を設(もう)けて規制。英国(えいこく)やカナダも法律で取り締まっている。米国では禁止する法律こそないが、差別的な言動(げんどう)をすれば厳(きび)しい社会的(しゃかいてき)制裁を受ける。

 一方、日本政府は法規制に慎重(しんちょう)な態度(たいど)をとってきた。日本は人種差別撤廃条約に加入しているが、「人種的優越(ゆうえつ)または憎悪に基(もと)づく思想(しそう)のあらゆる流布(るふ)」や「人種差別の扇動」などに法規制を加(くわ)えるよう義務(ぎむ)づけている条文(じょうぶん)は「留保(りゅうほ)」しているからだ。外務省(がいむしょう)は「憲法(けんぽう)が保障(ほしょう)する『表現(ひょうげん)の自由(じゆう)』などを不当(ふとう)に制約(せいやく)することにならないかを検討(けんとう)する必要(ひつよう)がある」としている。

 だが、ようやく政治(せいじ)も動(うご)き出した。自民党(じみんとう)は8月、「ヘイトスピーチ対策等(たいさくとう)に関する検討プロジェクトチーム(PT)」をつくった。PTの初会合(はつかいごう)では国会前(こっかいまえ)の脱原発(だつげんぱつ)デモなどの規制も併(あわ)せて検討すべきだとの意見が出て、野党などから批判(ひはん)を浴(あ)びた。自民党はその後、国会前のデモで新(あら)たな規制を設ける考えはないことを打ち出した。

 ヘイトスピーチの法規制は国民(こくみん)の寛容(かんよう)さや謙虚(けんきょ)さを追求(ついきゅう)するのが目的(もくてき)だ。「表現の自由」や「集会(しゅうかい)の自由」の制限(せいげん)などに悪用(あくよう)されないよう、国民は継続(けいぞく)して監視(かんし)していく必要がある。(松尾一郎)

 ■来週のテーマは

 次回は「代々木ゼミナールの大リストラ」を学びます。取り上げてほしいテーマをお知らせください。

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