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 《メディアタイムズ》

 原発、特定秘密保護法、領土・歴史問題など、報道各社が直面する課題にどう向き合うかを話し合う第58回マスコミ倫理懇談会の全国大会が25、26日、松江市で開かれた。国民の知る権利に関わる問題や各社の論調が割れるテーマなどについて、活発な議論が交わされた。

 ■「美味しんぼ」を議論

 「原発の問題をどう伝えていくか」と題した分科会では、人気漫画「美味しんぼ」をめぐる問題に議論が集中した。作者の雁屋哲さんが福島県の人々を描いた「福島の真実」編(今年4~5月掲載)に、主人公が原因不明の鼻血を出す場面や、「もう福島には住めない」という学者の発言などが掲載され、風評被害と差別を助長すると批判が相次いだ。

 小学館の山了吉社長室顧問は、作者の雁屋さんが福島で約60日間取材し、「取材相手の意見を忠実に描いた」と報告。「物語はフィクションだが、事実関係はノンフィクション。問題提起になればと思った」

 福島の地元紙、福島民報社の安斎康史報道部長は、原発再稼働の動きが注目される中、原発事故の被害者が取り残されるとの思いが県民にあるといい、「漫画は問題提起になったと感じた」と語った。

 原発再稼働をめぐる報道については、国の新基準に適合した九州電力川内(せんだい)原発の地元、南日本新聞社の永瀬和哉報道部副部長は「避難計画の実効性や再稼働に向けた地元同意をどこまで取り付けるかなど課題が山積みだ。なし崩しで進まないよう取材を続けていく」と語った。

 ■秘密保護法、萎縮懸念の声

 「知る権利」と特定秘密保護法についての分科会では、報道や取材への影響を懸念する声があがった。

 今年2月、陸上自衛隊の警備部隊配備候補地に関して沖縄・石垣島の2カ所をあげ「最終調整に入っている」と報じた琉球新報を防衛相が批判。防衛省は日本新聞協会に「慎重かつ適切な報道を強く要望」と申し入れた。

 松元剛編集局次長兼報道本部長は記事は適正な取材に基づいているとし、一方で「特定秘密保護法を視野に、記者や会社の萎縮効果を狙って圧力をかける姿勢を強く感じた」と話した。

 護憲のメッセージを描いた車体広告を地元の鉄道会社が拒否している問題を報じた地方紙の担当者は「法律が出来ることで、なんとなく萎縮効果がある。取材がやりにくくなっている」。別の地方紙からは「集団的自衛権の問題が出て秘密法の報道が一気に盛り下がった。向こうの作戦だったかも」との声も出た。

 ■領土問題、地方紙から報告

 「東アジアにおける領土問題・歴史問題をどう報じるか」をテーマにした分科会では、領土問題に直面する地方紙から報告があった。

 山陰中央新報(本社・松江市)と昨年、合同連載「環(めぐ)りの海」を手がけた琉球新報(同・那覇市)の普久原均・論説副委員長は「尖閣諸島についての報道や世論はナショナリスティックになっていたが、多角的な視点を心がけた。中国で取材すると、ほとんどは『武力衝突を避けるべきだ』という声だった」と話した。

 山陰中央新報の鎌田剛記者は、領有権をめぐり韓国と対立する竹島について「船なら4時間で行けるが、国際問題になるので行けない。ただ竹島について報道すると、地図や文献など客観的な証拠や資料が新たに見つかるようになっている」とした。

 講師として招かれた渡辺靖・慶応大教授(文化外交論)は「中国や韓国は日本批判のキャンペーンを欧米などで強化している。これに過剰反応をして術中にはまるのではなく、堂々とした姿勢を示し、キャンペーンを無力化することが重要だ」と分析した。

 (編集委員・川本裕司、吉浜織恵、須藤龍也)

 ■朝日新聞社の慰安婦報道も取り上げる

 朝日新聞が吉田清治氏(故人)の証言を虚偽として記事を取り消した慰安婦問題の報道について、領土・歴史問題分科会で発言があった。

 渡辺靖・慶応大教授は「宮沢首相が訪韓する直前に朝日新聞が出した(軍関与を示す資料発見の)原稿は、大きな影響があった。一方、吉田証言は国連のクマラスワミ報告書で言及されているが、その影響力は限定的だ。欧米では自由意思ではない統治下の環境で売春行為をさせられたことが問題視されている」と指摘した。

 「知る権利」の分科会では、一部週刊誌が朝日新聞の木村伊量(ただかず)社長の国会招致を促す記事を掲載していることについて座長が問題提起。日本雑誌協会編集倫理委員長を務める高沼英樹・光文社編集管理局長が当事者として発言。「メディアとして天につばする態度だと思う」と話した。

 主催者のマスコミ倫理懇談会全国協議会の國府(こうの)一郎代表幹事は、開会のあいさつで「メディアが原点に立ち返り、読者の信頼に応える取り組みを強化することは共通の課題」と述べた。

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