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 (1面から続く)

 東京都北区の「シニアマンション」を出入りするヘルパーたちは、寝たきりの高齢者を「拘束」することに、忙しさのなかで疑問を抱かなくなったという。

 訪問介護は1回30分か1時間で、最大でも1日3~4回だ。ヘルパーらは3棟の入居者を次から次へと訪問し続ける。

 元ヘルパーによると、30分の訪問介護は、特に慌ただしいという。直後に別の入居者の訪問介護があるため、25分で終わらせる。おむつ交換、食事、歯磨きなどを一気にこなす。

 訪問介護中に、別の入居者から「(拘束している)手首ベルトが痛いので外して」と頼まれたこともある。しかし訪問介護は、利用者1人に対し1人のヘルパーで対応するのがルール。介護中に、別の利用者を介護することは原則的に禁じられている。

 居室で息を引き取る入居者もいる。夜間はヘルパー1、2人が手分けして数回の見回りをするが、主に呼吸をしているかの安否確認だという。

 介護度が重くても24時間の対応がないことは、入居者も確認していることになっている。「同意書」には「予定時間外の食事・排泄(はいせつ)・移動等の介助(中略)には対応いたしかねます」と明記されている。別の書類にはイラスト付きの説明で、ベッドに横たわる高齢者が「便が出たのでオムツを取りかえて」と訴えるのに対し、看護師が「次のプラン(訪問時間)までまって下さい」と答えている。

 訪問介護事業所には「ヘルパーマニュアル」が用意されており、「身体拘束編」では拘束具の装着方法などが書いてある。

 あるヘルパーは「拘束していいのかと最初は思ったけど、『しょうがない』と自分に言い聞かせているうちに当たり前になった」と話す。

 ■有料ホーム入れず、窮地に

 このマンションに今夏までいた90歳超の女性は「この年齢になって、こんな苦しい目に遭うと思わなかった」と振り返る。

 一人暮らしだった昨年、軽い脳梗塞(のうこうそく)で北区の総合病院に約3カ月入院した。杖がなければ歩けないほどになり、一人暮らしに戻れそうもない。退院日が迫って焦っていた。自分の年金でまかなえる施設を探したところ、病院からこのマンションを紹介された。

 ベッドの四辺は柵で囲まれ、自力では出られない。上半身を起こせる電動ベッドなのに、一人の時は操作するリモコンが届かないところに置かれた。

 寝たきりになり、何も考えることなく天井を見つめるだけ。毎日つけていた日記には、介護に来るヘルパーの名前と時間ぐらいしか書くことがない。「気がおかしくなりそうだった」

 1年後、親族が申し込んでいた特別養護老人ホームが空いて退居できた。

 今年初めまで入居者だった70代の女性は、一昨年の年末に脳梗塞で倒れた。体が動かず、会話もできなくなった。女性の親族は医師から「この状態を自宅でみるのは厳しい」と告げられたが、病院の相談窓口からは「特養への入居はすぐには難しい」と言われた。

 評判のいい有料老人ホームは高額で手が出せず、途方に暮れていたところ、「うちで引き取れます」と言われたのが、このマンションだった。

 お見舞いに行くと、ヘルパーが訪れた直後なのに、目やにで目がふさがっていたことがあった。手首がうっ血していても、ヘルパーに「24時間みているわけではない」と言われた。

 女性の介護計画を作るケアマネジャーの言葉が忘れられない。「自分の親はここに入れたくありません」

 ■「一般マンション」と紹介

 「シニアマンション」の紹介ホームページには「国の制度の類型に該当しない、一般の民間賃貸マンションです」とある。一般マンションで訪問介護サービスを提供する方が、事業者にとっては利点が多い。

 有料老人ホームとして自治体に届け出ると、居室の広さや職員の配置などに基準があり、行政の指導を受けるようになる。介護保険サービスを提供する場合、24時間対応も求められる。

 また事業者が受け取る介護報酬は、利用者の要介護度が高いほど、ホームよりも訪問介護事業の方が高い。要介護度5では月に最大約36万円が得られ、ホームより約10万円高い。

 高齢者住宅の入居相談をしているタムラプランニング&オペレーティングの田村明孝社長は「介護者がいないと日常生活が難しい要介護度3以上の単身高齢者は、24時間態勢の介護施設が適している。無届けの高齢者マンションのサービスは不透明で、拘束などの問題が起きかねない。都道府県は届け出を促し、積極的に介入すべきだ」と話す。(沢伸也、丸山ひかり、風間直樹)

 ■「行政の指導守り、適切に運営」

 朝日新聞が医療法人に取材したところ、次のような回答があった。

 「シニアマンション」が有料老人ホームに当たらない理由については「行政の審査を受けた結果、該当しない旨の判断が出されている」とコメントした。

 また入居者の「拘束」については「身体拘束を行う際には、東京都および北区の監督行政と協議のうえ、行政の指導を守り、適法かつ適切に運営している」と回答した。

 朝日新聞が東京都と北区に確認したところ、「協議して、24時間の身体拘束を認めることなどはありえない」「協議により身体拘束を行えるという取り扱いはしていない」と、両者とも指導の事実を否定した。

 ■主な高齢者向けの住まい(数字は厚労省調べ)

<特別養護老人ホーム(特養)>

 【特徴】65歳以上の要介護者が対象。施設内で介護サービスを低料金で受けられる。待機者多数

 【定員数】約52万人

<有料老人ホーム>

 【特徴】介護付きホームは施設内で介護保険サービスを提供。入居一時金などが高額なホームも

 【定員数】約35万人

<サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)>

 【特徴】2011年に制度化。安否確認、生活相談を提供。介護サービスは外部事業者を活用

 【定員数】約15万戸

<上記に該当しない制度外の高齢者住宅>

 【特徴】居室やサービスに規制はない。介護や食事を提供しても有料老人ホームの届け出をしないケースも

 【定員数】不明

 ◆高齢者住宅にまつわる問題について、情報を特別報道部にお寄せください(メールはtokuhoubu@asahi.comメールする)。

 

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