朝日新聞社の慰安婦報道について検証する、有識者7人による第三者委員会(委員長・中込秀樹元名古屋高裁長官)が22日、報告書を公表しました。慰安婦問題に関する記事の作成経緯のほか、取り消しや謝罪が遅れた理由、池上彰さんのコラム掲載見送りの経緯、朝日新聞の慰安婦報道が国際社会に与えた影響の有無などが検証されました。朝日新聞が報告書全文からポイントを整理しました。▼1面参照

 ■「吉田証言」に関する記事の経緯「扱い減らし消極的対応」/2014年8月の検証紙面「読者に向き合う視点、欠落」

 朝鮮人女性を強制連行したと証言した「元山口県労務報国会下関支部動員部長」を名乗る吉田清治氏(故人)に関する記事作成の経緯、2014年8月の検証紙面で謝罪がなかった理由などが焦点になった。

 朝日新聞は14年の検証紙面で、1982年9月2日付朝刊(大阪本社版)社会面に掲載された記事をはじめ、97年の投稿記事まで、確認できた16本について証言を虚偽だと判断して取り消した。

 報告書は80年代から90年代初めの取材方法について、裏付け調査がなく記事が繰り返し紙面に掲載され、執筆者が複数にわたったことを考えると、後年の記事になればなるほど裏付け調査を怠ったと指摘せざるを得ないとした。

 報告書によると、92年に現代史家の秦郁彦氏による済州島での実地調査で吉田氏の証言が疑問視された。以降、吉田証言は真偽不明という心証が社内の関係部署に一定程度共有されたとみられるが安易に記事を掲載し、吉田証言の取り扱いを減らしていくという消極的対応に終始した。「新聞というメディアに対する信頼を裏切るもので、ジャーナリズムのあり方として非難されるべきだ」と指摘した。

 97年3月の特集記事で吉田証言を「真偽は確認できない」との表現にとどめ、訂正・取り消し、謝罪をしなかったことを「致命的な誤り」と述べた。「狭義の強制性」を大々的に報じてきたことを認めず、「広義の強制性」を強調したのは「議論のすりかえ」とした。

 訂正・取り消しが遅れた理由として、当事者意識の欠如▽引き継ぎが十分になされていない▽訂正・取り消しのルールが不明確――などの背景を挙げた。

 報告書によると、14年検証では記事の作成に経営幹部が関与した。謝罪をしない方針は、拡大常務会が開かれる前日の協議で、木村伊量前社長がおわびに反対する意見を出し、最終的に8月1日の経営会議懇談会を経て決まった。取り消しが遅れた理由を十分に検証していないなど読者への誠実な態度といえず、謝罪しなかったことを「事実を伝えるという報道機関としての役割や一般読者に向き合うという視点を欠落させたというべきだ」と結論づけた。

 ■植村元記者が執筆した記事「安易かつ不用意な前文」/「軍関与示す資料」記事「1面トップ、問題とはいえない」

 大阪社会部員だった植村隆・元記者が執筆した2本の記事の作成経緯などが対象になった。1991年8月11日の朝日新聞朝刊(大阪本社版)社会面の「元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀重い口開く」と、同年12月25日の朝刊(同)5面の「かえらぬ青春 恨の半生」などの見出しの記事だ。

 報告書は8月の記事について、植村氏が縁戚関係を利用して特権的に情報にアクセスしたとは認められなかったと指摘した。一方、前文で「日中戦争や第2次大戦の際、『女子挺身(ていしん)隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、1人がソウル市内に生存していることがわかり」と記しながら、本文では「だまされて慰安婦にされた」と説明したことに言及。「強制的な事案であるとのイメージを与える安易かつ不用意な記載」と批判した。

 12月の記事で元慰安婦の経歴(キーセン学校出身であること)に触れなかったことについては、「事案の全体像を正確に伝えなかった可能性はある」とした。

 この2本の記事のほかに、日韓首脳会談のため宮沢喜一首相が訪韓する直前の92年1月11日、朝刊1面トップで「慰安所 軍関与示す資料」などの見出しで報じた記事の作成経緯も議論された。

 報告書は、1面トップとした判断に問題があったとはいえないと結論づけた。掲載時期について「(資料を寝かせ)宮沢首相訪韓直前のタイミングをねらって記事にした」という実態の有無は確認できなかったとした。ただ、前文で「深刻な課題を背負わされたことになる」としていることや、11日夕刊にも別の資料を掲載してたたみかけるように報道したことを挙げ、「訪韓の時期を意識して慰安婦問題が政治課題となるよう企図して記事としたことは明らか」と指摘した。

 一方、記事につけられた「従軍慰安婦」の用語説明メモは、挺身隊として強制連行された朝鮮人慰安婦の人数が8万~20万人であるかのように不正確な説明をしており、「読者の誤解を招くものだった」と判断した。

 ■池上さんコラム掲載見送り「実質的には木村社長の判断」「連載打ち切り決まっていた」

 ジャーナリストの池上彰さんのコラム「新聞ななめ読み」について14年8月29日の朝刊での掲載を見送り、9月4日の紙面でコラムを掲載した。その経緯が検証された。

 朝日新聞社は見送りの経緯について、木村伊量前社長がコラムの原稿について感想を述べたが、最終的に掲載しないと判断したのは杉浦信之前編集担当だという説明をしていた。しかし報告書は、「掲載拒否は実質的には木村社長の判断によるものと認められる」と認定した。

 報告書によると、池上氏に検証記事を取り上げてもらうよう依頼し、8月27日に池上氏から原稿を受け取った。編集担当を含む編集部門はそのまま掲載予定だったが、木村前社長が池上氏のコラムの原稿に対して難色を示し、編集部門が抗しきれずに掲載を見送ることになったと指摘した。

 掲載見送りの判断について朝日新聞の関係者らは危機管理的な観点から検討したと説明しており、「視野の非常に狭い、内向きの議論だ」と批判した。「経営と編集の分離」原則との関係でも「不適当な関与がされたと言わざるを得ない」としている。

 池上氏との交渉経緯に関し、朝日新聞社は9月1日以降、他の新聞社などの取材に「弊社として連載中止を正式に決めたわけではありません。池上彰氏と今後も誠意をもって話し合ってまいります」と説明した。

 報告書によると、8月28日夕、ゼネラルエディターや担当者らとの面談で、書き直しを求められた池上氏は連載を打ち切らせて欲しいと回答。その後に、担当の編集長からコラムをどのように終わらせるかを池上氏に打診するなどした。

 報告書は「実質的には(池上氏から打ち切りたいと言われた)その時点で打ち切りは決まっていたと認められる」と認定した。さらに「池上氏は28日の時点で終了が決まったと理解しており、朝日新聞の経緯に関する説明については、担当者に、自分とのやり取りが違う気がしますがといった感想を伝えた」と明らかにした。「池上氏との協議の内容をあまりに朝日新聞に有利に解釈したというべきだ」と批判している。

 ■国際社会に対する影響「日本批判に弾み」「韓国世論に効果」「あまり影響ない」3報告併記

 朝日新聞が8月、朝鮮人女性の強制連行を証言した吉田清治氏(故人)に関する記事を取り消した後、一部メディアや政治家から、朝日新聞の慰安婦報道が国際社会に与えた影響を問題視する声が強まった。朝日新聞は第三者委に、国際影響の調査を委嘱していた。

 報告書は、委員4人が異なる側面から分析した三つの報告を併記した。

 岡本行夫氏と北岡伸一氏は、海外有識者の間に「日本軍が、直接、集団的、暴力的、計画的に多くの女性を拉致し、暴行を加え、強制的に従軍慰安婦にした」というイメージが相当に定着していると報告した。「このイメージの定着に、吉田証言が大きな役割を果たしたとは言えないだろうし、朝日新聞がこうしたイメージの形成に大きな影響を及ぼした証拠も決定的ではない」とする一方、朝日新聞を中心に日本メディアが韓国での慰安婦問題に対する過激な言説を「エンドース(裏書き)」することで、この問題での日本への批判に弾みをつけたと指摘した。

 波多野澄雄氏の報告は、韓国内の報道を踏まえると「朝日新聞の吉田氏に関する『誤報』が韓国メディアに大きな影響を及ぼしたとは言えない」と分析。一方で、朝日新聞が日韓首脳会談直前の1992年1月11日、朝刊1面トップで掲載した「慰安所 軍関与示す資料」の記事について「日韓関係への影響という点からすれば、このスクープ記事は、韓国世論を真相究明、謝罪、賠償という方向に一挙に向かわせる効果をもった」と述べた。

 林香里氏の報告は、90年代以降に英米仏独の新聞10紙と韓国の全国紙5紙が扱った慰安婦関係の記事約1万4千本を対象とした定量的調査から、「朝日新聞による吉田証言の報道、および慰安婦報道は、国際社会に対してあまり影響がなかった」と結論づけた。「朝日新聞の報道の影響の存否は、慰安婦問題の一部でしかない」とも述べた。

 また、安倍政権に近い政治家らが河野談話の見直しを示唆したり、慰安婦問題全体を否定するかのような発言をしたりすることが、欧米メディアの慰安婦をめぐる報道量を押し上げている構図があると指摘した。

 ■朝日新聞社への提言「先入観や思い込み、ただせ」「取材体制のあり方、再考を」

 第三者委員会は一連の検証を踏まえ、報道のあり方や「誤報」が判明したときの取り扱い、経営のあり方などについて問題点を挙げ、改善を提言した。

 企画記事や調査報道について、「意見の分かれる論争的なテーマにおいては、それぞれの主張する事実が真実存在したのか、記事を書く者として十分吟味しなければならない」といった守るべき点を示したうえで、今回問題になった記事の多くで報道のあり方が忘れられ、「過去の事実の存否の吟味」「複数の情報源による再確認」が不十分だったと戒めた。記者には、先入観や思い込みをただし、一方的な事実の見方をせず、報道の影響力を自覚するよう求めた。

 また、過去の報道で「特定かつ一部の専門家や情報源に過剰に頼る傾向が見られた」と指摘。複雑で多くの異論がある問題について、「一面的、個人的人間関係に基づく情報のみに依拠するような取材体制のあり方を再考してほしい」と述べた。その場限りの記事や、過去の報道を吟味しないまま踏襲するような記事がまかり通っているとの認識も示し、継続的報道の重要性を再確認するよう求めた。

 朝日新聞社が8月、吉田清治氏を取り上げた記事16本を取り消したことに関連し、訂正や取り消しの区別や、どの記事を対象にするかについて、社内で議論が不十分だったと指摘。現状では「組織防衛のための判断や営業上の配慮が先行しており、言論機関として、後継の記者たちへの教訓を残すような形での対応にはなっていない」とし、読者にわかりやすい訂正などの提示方法の検討を求めた。

 編集と経営の関係では、慰安婦報道検証や池上彰氏のコラム掲載の問題で経営陣が編集に細かく介入したことが、新聞社の信頼を傷つける事態になったとして、経営と編集の分離原則を徹底するよう求めた。また、提言では、報道機関が第三者委員会を設置する問題点にも言及。報道の自由は表現の自由の中で特に重要で、特定の新聞社のあり方について「外部にゆだねることは、必ずしも最良の措置とは言えない」とした。

 最後に、全社一体となって今後の会社のあり方を真摯(しんし)に検討するよう求めた。

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