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 ■ともに考え、ともにつくるメディアへ

 朝日新聞社は今年、「信頼回復と再生のための行動計画」を発表しました。東京電力福島第一原発事故にからむ「吉田調書」に関する記事取り消しや、過去の慰安婦報道の検証特集で謝罪しなかったことなど、昨年の一連の問題を深く反省して作成したものです。朝日新聞は変わったのか。新聞は信頼されるメディアであり続けることができるのか。本紙でコラム「新聞ななめ読み」を連載中のジャーナリスト、池上彰さんと、紙面の最終責任者の長典俊・ゼネラルエディター(GE)が語り合いました。

 ■試行錯誤と苦闘の改革、訂正欄評価 池上氏/事実に基づく見方示し、異論も掲載 長

 長 一連の問題の反省から三つの基本方針を立てました。一つ目は事実と論評を分ける。二つ目はこれまで以上に読者や社会に耳を傾ける。三つ目は訂正欄を設け、過ちは素直に認めて読者に説明する。この1年の朝日新聞はどう映っていましたか。

 池上 よく言えば試行錯誤、悪く言えば悪戦苦闘しておられる。いろんな改革を打ち出し、おそるおそるやっているなと。目立つのは訂正欄。失礼ですけど、とっても面白い。なぜ、何をどう間違えたのか書いてある。とっても人間的で親近感があります。

 長 ただ、資料の読み間違えや思い込みとか、中身がプロとして非常に恥ずかしく、逆に信用を傷つけているのではという悩みもあります。

 池上 私はむしろ好意的に見ています。きちんと訂正する新聞が増えてきました。あと変化がわかるのは投書欄ですね。安保関連法の賛成意見が載るようになった。朝日新聞って、安倍政権に批判的で、安保関連法に反対の人たちが読むイメージを世間の人は持っていますが、いろんな人が読んでいる新聞がいいと思うんですよ。オピニオン面の佐伯啓思・京大名誉教授のコラムのように、耳を傾けるべき保守の見解もあって勉強になります。

 長 ウィングを広げて、きちんと見解、意見を紹介していくべきだと考えています。

 池上 安保関連法では賛成意見しか載せない新聞もあります。言論が極端な形になっている時に、いろんな意見を聴けるのは貴重なことだと思うんですね。

 長 朝日新聞の紙面モニターの方との対話集会で心に響いた言葉がありました。「朝日らしさを失ってほしくない。ただ、私たちは一つの新聞しか取っていないので、もっと多様な見方を紹介してほしい」と。論調や全体のトーンは朝日らしく、事実に基づく見方を示しながら、異論、反論も載せることを心がけています。バランスは難しいですけど。ただ、「萎縮しているのか」「政権にこびているのか」という声が寄せられることもあります。

 池上 こびているとは思わないですけど、現場の記者の戸惑いはあるような気がします。これまで通り、「切り込む」という記者の原則に立ち返ればいいだけですよ。

 長 事実と論評を分ける基本方針のもとで、論評は「考論」「視点」「解説」に分けたんですけど、記者には戸惑いが相当ありました。事実だけを並べ、論評では賛否両論を並列的に紹介するのでは、読む人は朝日が何を言いたいかわからないのではないかと。

 池上 それは乗り越えていかなければいけない戸惑いですね。偏らないように書くのはそれはそれで大事だろうけど、結果的に「だから何?」と。自分の意見を潜ませるのではなく、切れ味鋭い見方を提示することが求められていると思うんですよ。

 長 記者の蓄積、見方、知識をどう出していくのか。一番大事に考えていきます。

 池上 今、起きていることを見る歴史観、世界史的な視点が実は大事だし、本来、得意な記者がいると思うんです。ヨーロッパに今、100万人単位で難民が入っているけど、世界史的に見ると、ゲルマン民族の大移動ならぬ、現代版のアラブ民族の大移動ではないかと。日々のニュースの一方で、世界史的な観点で、読者がなるほどと思うような記事を読みたいですね。

 安保関連法でも、60年安保の時に国会を取り巻いたのは実は衆院の強行採決後なんですね。強行採決をみて、多くの人が民主主義の危機だと思って立ち上がった。今回も同じなんですね。そういう観点からの記事が非常に少ない。

 長 確かに当時を振り返りつつ、現在はどうなっていくのか、まだまだ分析し切れていないですね。課題として受け止めます。

 ■組織の力で特ダネ頑張れ 池上氏/読んでもらえる記者育む 長

 池上 頑張ってほしいのはやっぱり特ダネ。調査報道って大事だと改めて思うんです。例えばテレビでもドキュメンタリー番組って非常に少ない。雑誌メディアでもルポや、事実を追いかけたものを掲載する媒体がどんどん減っている。やれるだけの資金がとても続かない。個人ではとても無理な時に、組織ジャーナリズムの力がやっぱりあるんだろうと思うんですよね。

 長 新聞の役割はニュースだというのが実感です。生きのいいニュースや知らなかったことが新聞には出る。その役割はきちっと果たしていかないと、読者も離れ、読んでいて面白くないでしょう。

 池上 自由と言えば、アフロの(稲垣えみ子)編集委員が最近、朝刊の自分のコラムで退社宣言をしましたけど、すごく面白いなと思ったんです。彼女が自分のことを書いたら、ものすごく読者から反応があったり、街で声をかけられたりと。あれもひとつのやり方だと思いますよね。

 長 記者の力で新聞を読んでもらえるようにしていくことも必要だと思います。

 池上 記者は基本的に自分を消して、客観的に書くことを徹底的に教え込まれましたよね。私もNHK時代、ひたすらそうでしたが、キャスターになってニュースを伝える時に、伝えているお前はどうなんだと。人間的な感想をいうと反応が大きいんですよね。私もNHKを辞めて初めて、「私」を取り戻すために苦闘しています。朝日新聞の記者も自分を消して書いているんだけど、「私」を出して、人間としての思いが出てくるものを読ませるというのがあってもいいと思いますけどね。

 長 連載を終える時に少しのスペースですけど、筆者が自分の思いを書くことがあります。書く以上は、その分野を深く取材し、いろんな経験をし、現場をちゃんと見ているという前提条件が必要ですよね。そういう記者を育てていきたいですね。

 ■一覧性はやはり新聞、何を伝えるか 池上氏/第三者の目で紙面に新たな感性を 長

 長 安保関連法案の各紙の報道では、法案への賛否や抗議デモの扱い方で二極化が目立ちました。メディアがそれぞれ特徴を出すのは大事ですが、どういう意見がほかにあるのかという多様性が抜け落ちた紙面は、読者の関心に十分こたえていないのではないかと思っています。

 池上 社説で見解を出しているので、一般記事はもっと自由であればいいんだけど、取材記者が反対派を積極的に取り上げればいいんだと空気を読んで取材していると受け取れる記事が散見されましたけどね。プロを育てなければいけない一方で、悪い意味でのプロ意識というのがあるとだめなんですよね。

 長 第三者の目を紙面づくりに生かしていくのが大事ですよね。

 池上 読者は第三者なんですから。NHKで「週刊こどもニュース」をやっている時にいつも、学生のアルバイトに書いた原稿を読ませて反応を聞いたんですよ。こっちは分かりやすく書いたつもりでも「分からないです」と言われて、第三者である視聴者の見方が分かりました。

 長 これからSNSやツイッターでの反応を注視して、第三者的な目を一つの材料にしていこうと思っています。新たな感性を入れることが、読みたい、疑問に答える紙面には大事かなと。池上さんから注文はありますか。

 池上 試行錯誤の中から新しい道を見つけて下さいとしかいいようがないんですけどね。ただ、やっぱり、元気がないという印象はありますよね。元気をもってほしいし、それは特ダネであり、もっとやんちゃな精神というのかな。ただ、あまりに社会の需要が多様化しているので、全部応えようとすると非常に難しくなりますよね。右往左往して何をやっているのかわからなくなる。

 長 ネットで元資料が瞬時に公表されるようになって、記事に書いていないことが問われます。記者はこの事実を取り上げたけど、大事な部分を書いていないと検証される難しい時代です。

 池上 記者の力が問われますよね。以前は記者が資料を独占して書いていましたよね。今は、すぐネットに公開される時代。厳しいけれど、やっぱり基礎的な情報のインフラは新聞だと思いますね。

 長 メディアは多様化しています。

 池上 ネット上のメディアが専門店として特化していく時に、日本と世界がどうなっているのか、一覧性で知ることができるのはやはり新聞だと思います。テレビはニュースの時間まで待たないといけない。新聞の特性は忘れちゃいけない。ニューヨーク・タイムズは「印刷に値するニュースはすべて掲載する」と毎号、1面の左上に書いています。「書くべきことは全部書いている」という自負と歴史に対する責任を持ってほしい。その矜恃(きょうじ)が大事だと思いますね。

 長 若い人にも新聞を読んでほしいと思っています。新聞記事は難しいですか。

 池上 新聞のわかりにくさが私の飯の種。わかりにくいところを解説すればいいんだと。ただ、新聞も読みやすくするために相当努力をするようになった。国際金融では昔は「資金」と書いたが、いまは「お金」になった。

 長 新聞を未来につないでいく責任を感じています。

 池上 未来でいえば、部数はまだ減りますよ。減るけど、なくならないというのが私の持論。世界でも類のない宅配制度であれだけの部数があった。だけど、実は読んでなかった。いま、本当に読んでいる人の部数が出てきた。落ち込みはどこかで絶対に止まる。コアな部分で必要とされている。どこでとどまり、その時、何を伝えることができるのかが問われていますね。

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 いけがみ・あきら ジャーナリスト、東京工業大学教授。1950年長野県生まれ。73年NHK入局。94年から11年間、「週刊こどもニュース」のわかりやすいニュース解説で人気を得た。2005年に退職後、民放各局でニュースの解説番組に出演。本紙の「新聞ななめ読み」は昨年の一連の問題で一度休載したが、今年1月から再開。「伝える力」など著書多数。

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 ちょう・のりとし 朝日新聞ゼネラルエディター 1960年生まれ。社会エディター代理、横浜総局長、スポーツ部長、編成局長補佐などを経て、2014年9月から現職。

 

 ■紙面、以前と比べていかがですか――モニターアンケートより

 朝日新聞は9月、日々の紙面を読んで意見を寄せる紙面モニター・クイックモニターにアンケートを行い、約200人から回答を得た。以前と比べた紙面の印象を尋ねたところ、「良くなった」との回答は49%。一方で「変わらない」が33%、「悪くなった」は16%だった。良くなった理由では「読者との対話の姿勢ができた」「多様な見方を紹介している」などが多かった。投書への意見を載せる声欄や、読者の議論の広場として新設したフォーラム面を挙げて、「読者同士の意見交換が興味深い」(20代女性)、「考えさせる記事が多くなってきた」(70代男性)と評価する人もいた。

 悪くなったとの回答者からは「過度の萎縮」を指摘する声が相次いだ。70代男性は「両論併記を意識するあまり朝日新聞の視点が不透明な記事が多くなった」。「どうすべきかという見解が少ない」「権力批判の姿勢が弱まった」との意見もあった。

 朝日新聞は今春から訂正を原則、社会面にまとめて掲載するようにした。その結果、訂正の多さに驚く声が多数寄せられ、とくに単純ミスによるものが多いことへの不信感を抱く人もいた。

 ネットが普及するなか、新聞の特徴は何かも尋ねた。「興味がある記事以外にも目を通し、広い視野を持つことができる」「話題が継続的に取り上げられ、新聞社の見解が示される」などが挙げられた。

 「デジタル版」と「紙」の新聞の比較では、10代女性が「デジタルの方が手軽だが、記憶に残るのは紙」と回答。高齢な読者ほど、慣れ親しんだ紙の読みやすさを評価する傾向がみられた一方、「紙の強みはなくなる」との指摘も複数あった。

 

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