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 パブリックエディター(PE)制度は、朝日新聞が昨年1月に発表した「信頼回復と再生のための行動計画」で設置が決まったものです。読者代表の視点で意見を言うPEの声は、日頃の紙面作りに具体的にどのように反映されているのでしょうか。

 長典俊ゼネラルエディター(GE)に尋ねました。「Q&A形式の記事では、読者の声を代弁しているかのような書き方で誘導的な報道をすることもできるのではないかというPEの指摘を受け、Qの部分が誰の問いかけかということを意識するようになりました。また『~女子』という安易なネーミングに疑問を呈したPEの意見を参考に、記事のタイトルを変更するなど、細かい事例を重ねて紙面を改善しています」

 PE制度ができたことによって、朝日新聞の記者たちにはどのような変化があったのでしょうか。「ともすると記者が何を伝えたいかという思いが先走ることがありましたが、一連の問題を受けて事実と論評を分けることを徹底しています。記者たちが“読者にどのように読まれるか”を強く意識するようになりました。ただ事実の読まれ方も人によっていろいろで、『無味乾燥で朝日の考えが全然出ていない』という人もいるし、『考える材料を与えてくれている』と評価する人もいます。まだ試行錯誤です」

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 昨年末には、日韓両国の政府が慰安婦問題に関する合意に至りました。朝日新聞も詳しく報じましたが、読者からは多くの意見が寄せられました。目に付いたのは「朝日新聞は今どんな思いでいるのか」という読者の率直な疑問です。私も同じ感想を持ちました。読者の信頼を回復する上でも、朝日新聞の記者がどのように悩み、考えながら記事を書いているのか、読者に伝える責任があるのではないでしょうか。

 今回の日韓両政府の合意について何を念頭において報道したのかを長GEに尋ねました。「朝日新聞としては、今回の日韓両政府の合意は政治的・外交的な一つの決着として、基本的に評価するべきだと考えています。合意に至るまでの経緯と合意内容に関する事実を正確に報じることを心がけました。一方で、これはまだスタート地点に過ぎないとも考えています」

 今回の日韓合意に関する報道の中で、朝日新聞は一昨年の、慰安婦に関する吉田清治氏の証言記事の取り消しとおわびが遅れた問題については触れていません。なぜなのでしょうか。「慰安婦報道を検証する第三者委員会による調査では、吉田証言報道の影響について、『韓国の慰安婦問題に対する過激な言説を裏書きし、さらに過激化させた』『韓国メディアに大きな影響を及ぼしたとはいえない』『国際社会にあまり影響がなかった』という三つの報告が併記されました。今回の合意や日韓関係への影響についての位置付けがしづらいと考えました。朝日新聞が慰安婦問題を報じ始めた原点は、元慰安婦の方々の名誉回復がされること、そして女性の人権、戦時下の性暴力に対する問題意識でした。その原点にもう一度立ち返り、改めて慰安婦の実相、実像に迫っていくつもりです」

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 12月29日の朝刊1面に掲載された箱田哲也編集委員の論考は「今後、どんな隣国関係を作っていくのか。それを考え、育んでいくのは市民である」と結ばれていますが、市民が建設的な関係を築くためには、正確な情報に基づいて、お互いの立場を知ることが必要です。日本や韓国のメディアが慰安婦問題をこれまでどのように報じてきたのか、検証するべきではないでしょうか。今後の取り組みを聞きました。「なぜ今回の合意に至るまで時間がかかったのか、なぜこのタイミングでの合意だったのか。両国間の政治・外交上の様々な問題やメディアのありようなども伝えていく必要があります。一方で、今回の政府間合意を両国民の合意、共通理解にまで高めることが大事です。慰安婦問題を乗り越えるために、市民レベルの文化的、経済的な交流も追っていきたいと思っています」

 朝日新聞が読者の信頼を取り戻すには、自らの葛藤する姿を隠さず、たとえ「どの面下げて」と言われても、慰安婦問題、日韓関係について誠実に伝え続けるしかありません。記者の伝えたいように伝えるのではなく、正確な事実を、読者に親切に伝える努力が問われているのです。

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 こじま・けいこ タレント、エッセイスト。1972年生まれ。95~2010年、TBS勤務。近著に「屈折万歳!」。

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