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 これまで、自治会、働く現場、学校で学ぶ子どもたちの声などを頼りに共に生きる社会のあり方を探ってきました。最終回は、20年以上前から外国の人々と暮らしてきた団地を訪ねます。アンケートに寄せられた、海外で暮らす日本人の声、日本に暮らす外国人の意見などから、そこにある見えない壁をどう越えていくかを考えます。

 ■歩み寄り、慣れと辛抱 世帯の2割が外国人、神奈川「いちょう団地」

 いただいたデジタルアンケートの回答の中に、神奈川県の「いちょう団地」に触れたものがいくつかありました。記者が団地を訪れ、住んでいる人々に聞きました。

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 中高層の建物がそびえ立つ神奈川県営いちょう団地の敷地内には、中国語やベトナム語、スペイン語など6カ国語の看板が立っています。

 「生活雑音に注意しましょう」「ゴミは決められた日の朝に出しましょう」。横浜市泉区と大和市にまたがる団地には、20年以上前から外国人が住むようになり、昨年4月には約3300世帯の2割に達しました。当初はベトナムなどのインドシナ難民が大半でしたが、現在は様々な国から来た人々が暮らします。

 「最初は外国の食べ物のにおいも嫌だったし、南米の女性の露出の多い格好に目が点になった」と、大和市側の連合自治会長、遠藤武男さん(74)。自治会にも、「ゴミ出しのマナーが悪い」「ベランダに生肉を干している」など、様々な苦情が寄せられたといいます。

 外国人にも戸惑いはありました。15年前から住み始めたボリビア出身のテルヤ・カティウスカさん(41)は、「誰に聞いていいかもわからないまま、『ちゃんとやりなさい』という感じだった」。

 自治会内には、「外国人のために何かをする必要はない」という意見もありましたが、遠藤さんは「どちらかが歩み寄らないと解決はできない」と感じました。料理やダンスのイベントを始めたのが約10年前。交流が進み、顔見知りになると、大きなトラブルは減っていきました。「慣れも大切。今では食べ物のにおいがしないと寂しいし、明るさにも元気づけられる」と遠藤さん。「でも、時間にルーズでイライラさせられることもあります。辛抱も必要」と苦笑いします。

 ただ、自治会の高齢化が進み、最近は催しの開催が難しくなっています。自治会に参加する外国人はほとんどいません。横浜市側の連合自治会の八木幸雄会長(71)は「自治会もいずれ日本人だけではやっていけない時代が来る。参加しやすい組織づくりも考えないと」と話します。

 外国人向けに日本語教室や生活相談を続ける団体「多文化まちづくり工房」の早川秀樹代表は、「以前と比べると、お互いの距離は近づいた。でも、のたうち回りながら試行錯誤している状態」と話します。子どもを通じた交流はあっても、大人同士はまだまだ。「顔の見える関係を作り、行政や学校も含めてつながることが大切」といいます。

 いま必要だと感じているのは、企業とのつながりです。言葉もわからないまま雇われ、日本語を学ぶ余裕もない人も少なくありません。不景気になれば真っ先に首を切られてしまう。「コンビニ弁当も、そういう人たちが作っている。利益を出している企業の側にも、もっと関心を持ってほしい」と話しました。(仲村和代)

 ■「慣習の尊重が大事」

 働き手として外国人にもっと来てもらうことへの賛否を尋ねた朝日新聞デジタルのアンケートは、終盤になって「反対」が「賛成」を上回りました=グラフ。

 日本人と外国人が共に暮らしやすい社会にするため、最も大切なことを選んでもらった質問では「来る人が日本の文化・慣習や生活のルールを守る」を最も多くの人が選びました。「郷に入っては郷に従え」という言葉を引用した意見や、次のような声です。

 「日本にもずっと昔から独自の文化、慣習があってそれに沿って社会が成り立っている。外国人が日本に来たらそれらを尊重し、引っ掻(か)きまわすことをしてはならないと思います」(埼玉県・50代女性)

 一方で、「何も伝えようとせず、一方的に守れと言うのはあまりにも乱暴なので、一緒に学ぶ機会を設けることが、コミュニケーションの観点からも有効と考える」(石川県・40代女性)という声や「在日外国人は日本語がうまく話せないために、職探しにも苦労しています。生活に必要な最低限の日本語を学べる場を、もっと増やしていく必要があると感じています」(神奈川県・30代女性)といった声も寄せられました。

 ■「当たり前」にも違い

 外国に住んだ経験をもつ人たちは、「外国人」だった立場から、多くの意見を寄せてくれました。

 「日本についての理解を深めてもらえる機会や情報を用意するのは当然として、受け入れる日本人側が、日本では当たり前のことが当たり前じゃない国や文化が多々あること、なぜ日本の習慣や考え方を理解しにくい外国人がいるのかということを分かろうとする姿勢がないと溝は埋まらない」(アメリカ在住・50代女性)

 「オランダで暮らした経験からすると、日本人と外国人双方にとって『暮らしやすい社会』実現の鍵となりそうな点が三つあります。第一は郷に入っては郷に従うこと、第二はお互いを人間・個人として尊重し合うこと(異質なものを受け入れること)、第三にコミュニケーションを密にし相互理解することです」(東京都・60代男性)

 ■分ける考え方に疑問

 そもそも、「日本人」「外国人」と分けて考えること自体に、疑問を投げかける意見もありました。

 「『日本』と『外国』の二分法での思考自体が、他者の排除を当然としているのではないか。20代のほとんどを日本の外で過ごした経験から感じるのは、外国人であるかどうか・国籍がどこか、ではなく『個人』として見られ、その個人の持つ文化的背景が異なる場合に、自分の常識だけで判断することができないことが多々あるということだ」(東京都・40代女性)

 「日本人と外国人の定義や境界線が(いい意味で)ますます不明確になっている時代に、いつまでも日本人はこう、外国人はこう、と縛り付けるのは時代遅れだと感じる。日本人VS.外国人のようなバイナリー(二元)的な考え方がなくなればいいなと願っています」(福岡県・30代女性)

 ■「気をつけること教えて」

 日本に住む外国人の意見は――。

 「日本はどんな文化を持っているか、本国とは何が違うか、迷惑をかけないよう努力しています。だとしても僕たちには日本のことは異文化なので、日本人と全く同じ期待をもらうならそれは困ります。自分たちが知らなかった失礼があったら、そのことに対して詳しく教えて欲しい」(韓国人留学生の20代男性)

 「家を探すとき、何度も断られました。家の中に土足で入る、ゴミの分別ができない等が理由の一つだと思います。日本で何度か家を借りましたが、これらのルールについて不動産屋で説明を受けたことがありません。日本の家で気をつけることを説明するパンフレットを家を借りる外国人に渡すというのはどうでしょう」(神奈川県・40代女性)

 ◇アンケートには、思いのこもった意見がたくさん寄せられました。日本の良さが失われるという不安。多様な文化に接することへの期待。国のあり方そのものに関わる問いだからかもしれません。

 生活上のトラブルに関する声も寄せられ、現実の共生の難しさを痛感しました。一方で、「自然にいれば、いつの間にか」という、愛知県知立市の小学生のしなやかな言葉に、希望も感じました。

 私は中国とフィリピンから来日した大学生を取材し、自分の文化を日本で生かそうとする姿に魅力を感じました。この社会をより豊かにするための共生が有り得るか。現場で取材を続けます。(玉置太郎)

 ◆ほかに今村優莉、桜井泉、鈴木暁子、楢崎貴司、畑川剛毅、疋田多揚、増田勇介、宮崎亮が担当しました。

 ◇次回21日は『どうする 最期の医療:1 心配なこと』

 ◇アンケート「どうする 最期の医療」をhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施しています。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

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