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 熊本県などでの一連の地震で、避難生活の長期化に伴う災害関連死(震災関連死)への懸念が高まっている。持病がある人や高齢者らにリスクがあるとされる。専門家は、医療面でのケアやボランティアによる支え合いが必要だと指摘する。

 熊本県が公表した震災関連死とみられる11人のうち1人は、同県阿蘇市の避難所で倒れているのが見つかった女性(77)だ。女性は16日から同市の避難所に避難。17日午前にトイレで倒れているのが発見され、搬送先の病院で死亡が確認された。市によると、死因は急性心不全とみられる。家族らによると、女性は高血圧だった。避難所で寝泊まりするのを嫌がっていたという。「地震で不安があり、早く家に帰りたかったんだと思う」

 避難生活が長期化すれば関連死が拡大する恐れもある。16日の本震後に同県南阿蘇村立野の元小学校に避難している緒方妙子さん(82)は、心臓病の手術を受けたことがあり、薬を手放せない。板張りの床に薄いマットを敷いて眠るが、眠りは浅く、疲労が募る。最寄りの病院は機能停止しており「体が持ってくれるだろうか」と気をもむ。

 今回の地震では、被害を受けた医療機関も多く、南阿蘇村で最大規模の阿蘇立野病院は入院も外来も受け付けられなくなった。20日、内科医の渡辺淳永さんや看護師らが避難所の中学校体育館前に臨時診療所を開設すると、早速、30人ほどが訪れたという。車中泊を続けているという女性(66)は、左足が腫れ、紫色になっていた。渡辺さんはエコノミークラス症候群を疑い、女性を救急搬送する手続きをした。「避難が長期化すれば、関連死のリスクは高まる」と心配する。

 こうした状況を受け、各地の医師会による災害医療チームなどが被災地入りし、避難者らのケアに乗り出している。同県益城町の町総合体育館の脇に設けられた日本赤十字社のテントでは18日ごろから、避難生活のストレスや持病の悪化で訪れる高齢者が増えてきたという。

 ■要支援者の把握、急務

 東京電力福島第一原発事故で全住民が避難した福島県大熊町。避難所で問題になったのは、持病のある高齢者らの支援だった。慌てて避難した多くの避難者が服用中の薬を持参していなかった。町職員が必要な薬と入手先を調べ、人工透析が必要な人を確認し、受け入れ可能な病院を探した。

 当時、総務課長として避難所を取り仕切った鈴木久友さんは「薬や透析は命に直結する。食料よりも優先して対応した」という。

 国は2013年、災害対策基本法を改正し、市町村に避難行動要支援者名簿を作るよう義務づけた。地震や津波などで、寝たきりなど避難に支援が必要な人を事前に把握するのがねらいだが、細田重憲・岩手県立大非常勤講師は「地域にどんな支援を必要とする人がいるのかを把握する手段にもなりうる」と話す。

 だが、熊本市の場合、名簿に登録されているのは約3万4千人いる。避難所でなく目の届かない場所に避難した場合、行政が把握するのは極めて難しい。

 上田耕蔵・神戸協同病院長は「体調にリスクを抱えた人を探し出すためのローラー作戦が必要だ」という。行政だけでなく、看護師や保健師を中心としたボランティアがチームで戸別訪問するのが有効という。

 避難所での生活が困難な高齢者や障害者が見つかった場合、福祉施設などに設置される「福祉避難所」が受け入れ先となる。しかし、ケアする人自身の被災や、物資不足などで活用には壁があるのが実情だ。

 熊本市では176施設が福祉避難所に指定されているが、19日現在で設置されたのは15施設で入所者は27人。市の調整が追いつかず、多数の希望者が入所を待っている状態だ。人手不足のため、市は20日、福祉施設の介助ボランティアの募集を始めた。細田さんは「広域で福祉施設同士が職員を派遣し合える仕組みを整えておけば、緊急時に役立つはずだ」と指摘する。

 ■気をつけることは? 毎日20分は歩く/体重増減に注意

 震災関連死が初めてクローズアップされたのは約6400人の死者を出した1995年の阪神大震災だ。兵庫県のまとめでは、全体の約14%にあたる約920人が、地震後2カ月ほどの間に亡くなり、震災関連死とされた。2011年の東日本大震災では今年2月末時点で3400人を超す。

 厚生労働省の研究班の調査によると、阪神大震災での関連死の原因は肺炎が最も多かった。神戸協同病院の上田院長は「避難所でインフルエンザが流行して肺炎で亡くなる人が多かった。ただ、冬でなくても、感染症や食中毒は持病がある人らにとっては命にかかわるので、避難所は衛生対策をすすめてほしい」と話す。

 日本医科大の木田厚瑞(こうずい)・特任教授(呼吸器内科)は「肺炎球菌などによる高齢者の肺炎が心配だ。床で寝ていると、ほこりを吸い込んでかかりやすい。慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)、気管支ぜんそくの患者の悪化も懸念される」。

 ほかにリスクが高いのは、心臓など循環器系に持病がある人たちだ。阪神大震災では肺炎に続いて、心不全、心筋梗塞(こうそく)による死者が多かった。

 東北大病院循環器内科・下川宏明教授は「東日本大震災でも、避難所の生活を続けることで心拍数や血圧が上がった状態が続き、心筋梗塞や心不全、脳卒中で亡くなる人がいた。高齢者はもともと血液を送り出す心臓の力が弱まっていて、高血圧やストレスによって心不全になりやすい。いつもは血圧が正常な人も注意が必要」と指摘する。

 日本循環器学会など3学会は18日、避難所での循環器病を防ぐための対策を示した共同声明を発表。1日20分以上歩く▽水分を十分にとる▽体重の増減を2キロ以内に保つ▽マスクの着用や手洗いを励行する――などを助言している。

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