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 北欧ミステリーの人気が定着し、ジャンルとして語られるようになってきた。特徴は、苦悩しつつ犯罪に向き合う社会派ミステリー。松本清張作品のように、日本の読者には懐かしい「真面目さ」がある。今年の翻訳ミステリー大賞は北欧の作家が選ばれ、評価も高い。

 日本の北欧ミステリーブームは2008年、スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』(早川書房)の翻訳刊行から始まった。作品は、権力を監視するジャーナリズムの衰退や性暴力といったテーマを前面に打ち出して日本でも大ヒット作になり、累計180万部になった。

 翻訳ミステリーに強い早川書房では07年、北欧ミステリーの刊行が一点もなかったが、08年以降は毎年5作品以上を刊行。近年もデンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンの警察小説『特捜部Q』のシリーズが人気を得ている。

 毎年翻訳者が選ぶ翻訳ミステリー大賞は今年、アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの『声』(東京創元社)に決まった。北欧作家の受賞は、7回目で初。サンタクロース姿で殺された男の苦悩を重厚に描いたものだ。

 文芸評論家の池上冬樹さんは「ゆがめられた正義や見逃される犯罪に対し、熱く問いかけるところに北欧ミステリーの特徴がある」と指摘する。英米ミステリーには、不正義や神の沈黙に「諦念(ていねん)」を抱いているような作品が多いとし、「英米ミステリーと百八十度違い、真っ向から追及の声を上げている」と語る。

 なぜ、日本でも人気なのか。池上さんは「登場人物がみな真面目に悩み、葛藤するところ」に、松本清張や水上勉が読まれた60年代の社会派推理小説ブームの頃の作品と通じるものがあると感じている。「鈍感になって気づかなかった罪の重さを突きつけてくる。だから懐かしくもあり、今また新鮮でもある」

 ■スウェーデンの犯罪小説語る 作家ヨハン・テオリンさん来日

 翻訳ミステリー大賞の授賞式に合わせ、北欧で最も優れたミステリーに贈られる「ガラスの鍵賞」受賞者のスウェーデン人作家、ヨハン・テオリンさんが4月、来日した。スウェーデン大使館で講演し、自国の犯罪小説の成り立ちや、日本からの影響を語った。

 かつてスウェーデンの犯罪小説は、アガサ・クリスティやレイモンド・チャンドラーら英米作家の影響下にあった。「アメリカにいなくても、行ったように小説を書いていました」

 転機は1965年ごろ。ペール・ヴァールーとマイ・シューヴァル夫妻が、実際に起きた国内犯罪を基に創作を始めた。「スウェーデン社会とは何か、見つめるようになりました」

 テオリンさんの作品も、「土地」が大きな意味を持つ。母方の出身地、エーランド島を舞台にした『黄昏(たそがれ)に眠る秋』(早川書房)に始まる4部作は、地元の幽霊話や民話に材を採った。

 日本の影響もあったという。「小泉八雲の怪談から影響を受けました。ホラー小説は善悪を分けるものがあるが、これにはなかった。江戸川乱歩の『芋虫』を読んだゾクゾク感は忘れられません」(高津祐典)

 <訂正して、おわびします>

 ▼18日付文芸・批評面「北欧ミステリー 社会派ぞろい」の記事で、「毎年読者が選ぶ翻訳ミステリー大賞」とあるのは「毎年翻訳者が選ぶ翻訳ミステリー大賞」の誤りでした。確認が不十分でした。

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