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 戦前は「総動員」、戦後は「総懺悔(ざんげ)」「総中流」などとさまざまな文脈で用いられてきた「1億総○○」。閣議決定された「ニッポン1億総活躍プラン」に、目を凝らしてみる。

 ■育児・介護への評価、低い 治部れんげさん(ジャーナリスト)

 経済と社会保障を持続させるために必要な政策を詰め込んだ福袋。それが「ニッポン1億総活躍プラン」だと思います。福袋にしたおかげで、働き方や子育てをめぐる提案もいろいろ入りました。

 政府が優先課題として打ち出したことの影響力を実感しています。企業は管理職の女性割合を公表するようになりました。年配の男性国会議員の意識も変わり、議論の土台がかなり形作られました。

 しかし、あくまで今の社会保障を維持する発想なので、「活躍」の意味するところが、働いて納税をすることに狭められています。

 女性の場合、出産して社会保障を担う次世代を育てつつ、働いて納税もせよと言われているわけです。「女性活躍」と言われて、心から歓迎している女性に会うことは少ないです。

 つまり、ケアワークに対する正当な評価が抜け落ちているのです。プランには保育士の待遇改善が入っていますが、女性労働者の給与水準のなかで増額分を決めています。ケアの仕事は女性のものだと決めつけているようで問題ですし、男性保育士への配慮も欠けています。

 家事や子育て、介護。これまで主に女性が担ってきたケアワークへの評価が低すぎることがそもそもの問題です。活躍の度合いを、どれだけお金を稼いだかでしか測れないとしたら貧しい発想です。そのような社会では、子どもは増えません。

 誰かのために自分の時間を使うことの価値づけを、社会全体で高めていく必要があります。男性も女性もライフステージに応じてケアに携わることを選ぶことができ、時期がきたら再び働くことができるようにしていく。選べるということが、活躍の本質だと思います。

 プランで気になるのは、活躍を求める側の「上から目線」です。女性たちは長時間労働をせずとも正当に評価され、子どもとの時間もとれるような働き方を望んでいる。おじさんたちから「もっと輝いて」と言われても、「もう十分やっていますから」と答えるしかありません。

 若い人たちを取材すると、仕事も家庭も持ちたいと言う人たちが多い。地方ではその傾向がさらに強いです。そうした望みがふつうにかなうように社会の仕組みを変えていけば、出生率を心配することも減っていくはずです。

 これから先の富の分配では、子どもを優先させるべきです。子どもは親を選べません。だから親の状況に関係なく、十分な支援のもと、底上げをされた形で人生をスタートできるようにする必要があります。大人の活躍に関する議論が一段落したら、今度はチルドレン・ファーストに取り組んでもらいたいです。

 (聞き手・北郷美由紀)

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 じぶれんげ 74年生まれ。経済誌を経て女性問題を取材。著書に「稼ぐ妻・育てる夫 夫婦の戦略的役割交換」など。

 ■「1億総支え合い」が前提 樋口美雄さん(慶応大学商学部教授)

 「1億総活躍国民会議」に民間委員として加わり、このほど閣議決定された総活躍プランの策定に参加しました。

 これは同一労働同一賃金や働き方改革、介護離職、保育所不足などについて、支援策や問題解決への法的整備など具体策をまとめたものです。

 これらの対策が必要になったのは、成長に取り残される人々が増え、こうした人々を支援していかないと、持続的な経済成長も阻害される、という事態に、社会が直面していることが背景にあります。

 格差や成長の果実分配の不均衡は、日本だけでなく世界的な課題です。6月に経済的不平等と雇用・教育・健康の問題を世界から集まった研究者らが話し合う会議がロンドンであり、私もプログラム委員として出てきました。

 かつては、経済が成長すれば、成果はおのずから広く働く人たちに行き渡りました。それにより、消費が盛んになって、さらなる成長にもつながる好循環があったのです。

 しかし経済やビジネス・金融のグローバル化で、競争が世界規模に広がる一方、技術も進歩し、働き方の個別化が進展するに従って、行き渡るためのパイプが目詰まりを起こし、低所得や非正規労働、あるいは職に就けないといった状況が広がっています。

 個々人が努力して、そうした状況を打開することが第一ですが、それには限界がある。社会全体で、詰まったパイプを通じるように支援することが必要になった。本格化する少子高齢化に向かって、誰もが意欲と能力を発揮できる持続可能な包摂的社会を実現させる環境を整えていく。これが、総活躍プラン作りの動機だと思います。

 プランは、広範な分野に広がっており、現状打開の大きな一歩になると考えます。

 しかし、実際にどれだけの岩盤を開けられるか、対策として十分か、事業のフォローアップは欠かせません。それを繰り返すことにより、より実効性を上げられます。

 支援には、十分な財源の確保が欠かせない、という声があることは承知しています。今回、安倍晋三首相が決断した消費税の引き上げ延期分とは別途の財源を、アベノミクスの結果増えた税収分を充てるとしていて、それが実行されることを期待しています。

 ただ、こうした財源は景気の好不況で増減するもので、「安定的な財源ではないではないか」と疑問視する人もいます。1億総活躍の支援が安定して、安心して使えるものであることが望ましく、恒久的な財源を手当てする議論が欠かせないと考えています。

 国民の皆さんにも、1億総活躍の前提は1億総支え合いであることを理解してもらい、支援を持続的な成長につなげるメカニズム作りに力を貸して頂きたいと思います。

 (聞き手・編集委員 駒野剛)

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 ひぐちよしお 52年生まれ。専門は労働経済学。著書に「日本の所得格差と社会階層」「少子化と日本の経済社会」(いずれも編著)。

 ■多様な生き方、尊重して サンドラ・ヘフェリンさん(コラムニスト)

 「1億」のなかに、自分は含まれているのか。そのことが気になっています。というのも、自分も含め「ハーフ」の場合、たとえ日本国籍を持っていても、見た目の違いから、日常生活の中で「日本人」として扱ってもらえないことも多いからです。

 もともと、政治家の語る「我々」に、私たちハーフのことが入っていないように感じていました。そこに「1億総活躍」が華々しく打ち出されました。少数者の立場の人たちや、立場の弱い人たちのことが十分に包摂されているようには見えません。

 女性の一人としても違和感があります。「1億」の前には、「女性活躍」が言われました。どちらにも、少子化対策の思惑があります。父の国のドイツは日本より少子化が深刻ですが、政治家は「子どもを産みましょう」とは言いません。言えば間違いなく拒絶されてしまうからです。

 日本ではそうした発言が許容される雰囲気があります。あくまでも希望としながらも、政府は出生率の目標も掲げていますよね。

 少子化を解決するのなら、未婚で子どもを産むことも歓迎し、それを後押しすることです。フランスの成功例が有名ですが、政策として出てくる気配はありません。

 産みやすい環境というなら、離婚したら原則的に父か母の一方が親権をとる単独親権のしくみや、養育費の未払いに罰則がない状況を改めることも必要です。男女が別れたとしても、子どもには共にかかわっていくのが当たり前になれば、シングルマザーの困窮状態は改善され、産むことをリスクだと考える女性も減るのではないでしょうか。

 女性からすれば「求められていること」が多すぎる気がします。輝いてください、活躍してください。なぜ女性ばかり? 仕事と家庭の両立は男女共通の目標です。男も女も働くからこそ、ワーク・ライフ・バランスも進みます。

 多様性を活力の源にする発想が欠けているとも思います。決定権を持つ人たちの多くは、従来の「枠」を広げるよりは、守ろうとしています。それは結婚観や家族の形によく表れています。

 ハーフの人たちも実に多様なのですが、ひとくくりにされがちです。日本育ちのためバイリンガルでないとわかると、劣った人に分類されます。スポーツで活躍すると、本人の努力よりもルーツが注目されてしまいます。

 多様性を尊重しながら「我々」や「日本人」の幅を広げていけば、政府から認定されるまでもなく、自然に輝き、自然に活躍する人たちが増えると思います。背景の異なる人たちがそれぞれの生き方をできる環境が整った先に、「1億総活躍」があるのだと思います。

 (聞き手・北郷美由紀)

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 サンドラ・ヘフェリン ウェブサイト「ハーフを考えよう!」を運営。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」など。

 

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