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 18歳選挙権が導入された夏の参院選では、SNSを使った企画「Voice 1819」を展開し、一票を手にした10代のみなさんと政治について考えました。そのとき「主権者教育は中学生から始めるべきだ」という指摘がありました。どんな試みが可能なのか。中学校での実践をもとに考えます。

 ■今こそ生徒会の出番

 中学生からの主権者教育を提言したのは、若者の政治教育に取り組むNPO法人「Rights」代表理事、高橋亮平さん(40)。高橋さんは、生徒会活動がそのきっかけになるとして、支援に乗り出しています。

 9月17日、東京で「主権者教育としての新しい生徒会 シンポジウム」が開かれました。高校生や現場の先生、研究者のほか、自治体の首長や政治家も参加。「政治教育の整備が遅れている」「投票方法や知識を学ぶだけではない、参画や自治を体験しながら学ぶ仕組みが必要」などの指摘がありました。海外との違いを考える中で、若者を呼び込む発想のない日本の地域や自治体の問題も話し合われました。

 シンポジウムは高橋さんが共同代表を務める「一般社団法人 生徒会活動支援協会」が主催。なぜ、生徒会なのでしょうか。「政治を身近にするためにも、実生活で問題解決に取り組むことが、『自分ごと』にすることにつながります。中学生や高校生が、興味のない人たちも含めてそれを体験するには、学校のルールを考える生徒会活動は効果的です」と高橋さんは言います。

 千葉市では7月、市内に55校ある公立中学校の生徒会長と、顧問の先生が集まる交流会がありました。会長たちの悩みは、みんなのもののはずの生徒会が、役員だけの活動になってしまっていることなど。顧問の先生の多くは、生徒会活動に熱心に取り組んだ経験がないといいます。

 他校と交じって話すことで「中学生はこんなにしっかり考えられるんだ」「先生もこんな問題を抱えているんだ」といった発見が、生徒にも先生にもあったそうです。

 この取り組みを「こども若者参画生徒会活性化アドバイザー」として切り盛りするのが高橋さん。11月には区ごとの「中学校生徒会情報交換会」が開かれます。会長だけでなく新しい役員たちが集まり「世界一の生徒会とは」を考える予定です。

 生徒たちに紹介されるのは、学校の経営に生徒も関わる「学校会議」などの欧州での先進的な取り組みです。スウェーデンでは、生徒会の全国組織があり、有力な若者団体の一つとして、教育にかかわる行政組織や政治家に日常的に要望を伝える活動もしているそうです。

 生徒会の活性化のために、生徒会から学校について提案し、それが実現できるようにすることが大事だと高橋さんは言います。たとえば生徒会の予算の使い方や、新しい制服を決めることをテーマにすれば、興味を持つ生徒も多いはず。今後はワークショップも検討しています。

 高橋さんは「小さなことでもいいので、『動けば変わる』ことを実感させたい。それが本来の主権者教育だからです。大きくいえば日本の民主主義の質を変えていくためにも必要だと思っています」(北郷美由紀)

 ■都知事にインタビュー

 中学生が自ら政治に触れ、理解を深める活動もあります。

 東京都内の中高一貫校、私立品川女子学院で9月、文化祭「白ばら祭」がありました。中等部(中学1~3年)はクラスごとに暮らしや社会の問題を取り上げて展示発表をしました。

 3年A組のテーマは「選挙」。総務省に電話して18、19歳向けの啓発活動について聞きました。アメリカ大統領選や、世界の国々の選挙を調べました。

 41人が力を合わせた展示の中で、目を引いたのが政治家へのインタビューです。東京都知事に就任したばかりの小池百合子さん、民進党代表選に立候補を表明していた蓮舫さん(後に就任)ら7人に直接会い、選挙や政治活動に関する質問をぶつけました。夏休みを利用して事務所などに足を運びました。

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 <ニュースに関心> 4人にインタビューした飯島季美花さん(14)は「政治家と聞くと気むずかしいイメージを持っていましたが、会ってみると気さくで話しやすい方ばかり。インタビューの後、民進党代表に就く蓮舫さんが小池都知事と対談したというニュースがあり、テレビをまじまじと見てしまいました」と話します。

 生徒たちは、文化祭前に比べて選挙や政治への関心がぐっと高まったと口をそろえます。

 企画の責任者を務めた加藤安奈さん(15)は「以前は一つの政党内に複数のグループがあることも知らなかった。民進党代表選のニュースも関心をもって見ていました」と話します。同じく責任者の小飼きわみさん(14)は、アメリカ大統領選が気になるそうです。「日本の選挙とはぜんぜん違う。選挙の方法も国民の雰囲気も。それには良いところも悪いところもある」と考えます。

 鎌田未来さん(15)は日本の選挙の歴史を調べました。「最初は男性の高額納税者にだけ選挙権が与えられましたが、今は18歳以上の男女全員に広がっています。男女が等しく政治に参加できるのは、とても喜ばしいことだと思います」

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 <家族とも話題に> 担任の窪田有里教諭は社会科を教えています。公民の授業で選挙を扱う時は、中高一貫の利点を生かし、高校の学習内容を先取りします。衆院選や参院選の制度を詳しく説明し、比例区で各党に議席を配分するドント式の計算も、実際にさせてみるそうです。

 「教科学習で基本的な知識を得ることは大切ですが、それだけでは自ら学ぶということがなかなかできません。文化祭では自発的にテーマを選び、探求しました。生徒たちの吸収力、自分のものにしていく力はすごいと実感しました」と話します。

 もう一つ、手ごたえを感じたことがあります。「生徒たちは家でも話題にしていたようです。選挙や政治について家族と一緒に考える貴重な機会が生まれました」

 最近、注目された政治ニュースの一つに、所得税の配偶者控除を廃止するか維持するかがありました。加藤さんは「共働きの両親は、職場の人たちの働き方が変わってくるという話をしていました」と言います。加藤さんにとっても関心のあるニュースになりました。(吉沢龍彦)

 ■ベルリン市、小学生も企画提案

 神奈川県教委が設けた「小・中学校における政治的教養を育む教育」検討会議で座長を務める西野偉彦(たけひこ)さん(31)に、主権者教育の先進地、ドイツの事例について聞きました。

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 2年前、視察に訪れたドイツでは「主権者教育」ではなく、「政治教育」と呼んでいます。かつてナチスを生んだ苦い教訓から、国民は政治に関心をもって主体的に関わることが重要だと考えているからです。その際(1)教員が見解を押しつけてはいけない(2)論争のあるものは論争のあるものとして扱う(3)生徒が自分にとっての利害を理解した上で、政治に参加できるようにする――という指針を掲げています。

 この「ボイテルスバッハ・コンセンサス」に基づき、小学生から段階的に社会に参画する「経験」を積む試みが定着しています。

 たとえば、ベルリン市内のある行政区では、「校庭にどんな遊具を設置するか」という現実の課題に、小学生が3人1組で企画書を書き、役所に提出します。限られた予算の中で、どれを採用すれば学校や地域に役立つのか。小学生の代表も参加する会議で決められます。

 教室の外の社会とも関わり、異なる利益の「板挟み」になることで主権者としての意識を育む。どの問題を考えさせるかより、自分の利益と公の利益をはかりにかけて決断する経験を重ねさせるほうが重要です。

 ドイツでは、学校と行政が協力して子どもが社会に参画する機会を作っています。提案させるだけでなく決定にも加えることで、言いっ放しや、おまかせ民主主義に陥らない工夫をしています。

 日本でも、小学生や中学生から「ステップ・バイ・ステップ」で取り組んでいくべきでしょう。今のように、高校生になって突然、模擬投票をして、選挙の仕組みについて学ぶのでは不十分です。これからの主権者教育が目指すべきは、投票やデモといった狭義の政治について教えることではなく、教室の内外にある身近なテーマで「意思決定への参加」を体験させることだと思います。(聞き手・諸永裕司)

 ◆小中学生のうちから様々な機会を通じて政治に触れ、意思決定への参加体験を重ねることが大切だという指摘はもっともだと感じます。千葉市で試みているように、生徒会の横のネットワークができれば、そこから新しい活動が生まれるかもしれません。校庭にどんな遊具を置くかを小学生が話し合えば、活発な議論になりそうです。日本でもできるのではないでしょうか。(吉沢龍彦)

 ◇来週11月7日は「非正規シングル中年女性」を掲載します。

 ◇「Voice1819」の企画は、http://info.asahi.com/voice1819/別ウインドウで開きますでごらんいただけます。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするへ。

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