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 今回取り上げるのは、8月7日付朝刊読書面の「悩んで読むか、読んで悩むか」という欄に掲載された記事「相談『中学校で男子からセクハラ、イライラ』 壇蜜さん『困った男子には“大人”な対応で』」です。

 この欄は作家ら回答者10人が回り持ちで登場し、各自の推薦本を通して読者からの相談に答えます。当日は、毎日のようにブラジャーの色を聞いたり、「胸をもませるかパンツを見せて」と言ってきたりする男子に対して「すごくイライラする」と悩む12歳の女子中学生から、タレントの壇蜜さんへの相談でした。

 回答は「きまぐれオレンジ☆ロード」という漫画を薦め、「悪ふざけには貴女(あなた)の『大人』を見せるのが一番だと考えます。次に見せて触らせてと言ってきたら、思いきってその手をぎゅっと握り『好きな人にしか見せないし触らせないの。ごめんね』とかすかに微笑(ほほえ)んでみてはどうでしょうか。(中略)漫画を読んで勇気を出して、大人の勝負に出てみましょう」などとアドバイスしています。

 これに対し、読者からは「相談者にセクハラに対する適切な対処法を示さず、むしろ矮小(わいしょう)化し、容認するような対応を勧める回答を掲載したのは問題だ」「謝罪を求める」といった厳しい批判が相次ぎました。

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 読書面を担当する阿部毅・文化くらし報道部長と、吉村千彰・読書面編集長が読者の声をどう受け止めたか、話を聞きました。阿部部長は「相談者と壇蜜さんと編集現場の間では、この欄は『直球回答』ではなく、第2、第3の意見を示すという共通理解があり、その趣旨に沿っていると判断した。だが、同じような被害に悩んでいる人たちにどう読まれるかという視点が欠けていたと反省している。『これはセクハラという行為だよ』と明示した上で、回答してもらうべきだった」と述べました。

 吉村編集長によると「中学生は壇蜜さんへの相談に応募したファン。学校外からの斜めの視点を示してほしいと望んでいた」。阿部部長は「賢くやれ、という回答をもらい、本人も保護者も満足している」と話しました。

 この件では、相談者も編集現場も回答者も「これはセクシュアルハラスメントという人権侵害なので、断固とした対応をしないといけない」という認識がなかったのではないでしょうか。見出しには「セクハラ」とついていますが、実際には編集現場も壇蜜さんの回答にある「悪ふざけ」という認識でした。その結果、性的嫌がらせを男子の好意と解釈し、男女の駆け引きとしてあしらうのが聡明(そうめい)な対応であると勧める回答を掲載、批判を浴びました。

 セクハラをなくすためには、まずそれが人権侵害の一つであり、許されない行為であると周知する必要があります。被害者は不快に感じているのに、加害者は単なる悪ふざけと軽んじている状況に「それはハラスメント行為で、絶対に許されない。被害者には助けが必要」と指摘し、支援することが大事なのです。

 第2の意見を示す欄だから、相談者が壇蜜さんのファンだから、は言い訳になりません。大人には被害を受けている子供に事実を伝える責任があります。そう指摘した部員が、記事が問題になるまで1人もいなかったことに衝撃を受けました。

 結果として、編集現場では「相談コーナーの回答としてこれは有りだろう」という評価でほぼ一致。「セクハラを容認することにならないか」という指摘はありませんでした。

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 被害者の中には、声を上げるのをためらっている人もいます。勇気を出して被害を訴えたのに、バッシングを受けることすらあります。「男の言動に目くじらを立てず、受け流してこそいい女」という詭弁(きべん)を、男性も女性も「大人の常識」として無意識に受け入れてしまっている空気こそが、女性に対するセクハラを蔓延(まんえん)させている温床なのです。

 朝日新聞は慰安婦報道において、女性の人権について強い問題意識を持って引き続き報じていくと言明しています。しかし身近なセクハラに鈍感な人たちが、戦時下の女性の人権侵害について訴えても何の説得力もありません。

 阿部部長や吉村編集長は「壇蜜さんの小説などを読み、知的な読書家だと思って回答者に起用」し、いわゆる壇蜜流の回答を要求したわけではないと言います。にもかかわらず今回、壇蜜さんの視点に疑問を呈することなく、結果として壇蜜さんをも批判にさらすことになりました。

 もし書き手の知性を本当に信用しているのなら、壇蜜さんに「深刻に悩んでいる読者もいる。きちんとした対処法を示した上で、相談者が相談して良かったと思え、読者にも読み応えのある回答を執筆してほしい」と伝えるべきでした。

 読者からの大きな批判を真摯(しんし)に受け止め、改めて全社的な人権教育を行うことも含めた、誠実な対応を求めます。

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 こじま・けいこ タレント、エッセイスト。1972年生まれ。元TBSアナウンサー。近著に「これからの家族の話をしよう わたしの場合」など。

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