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 衝撃が一巡した世界に、深い霧が立ちこめている。

 ドナルド・トランプ氏が大統領として米国をどこに導こうとしているのか。先行きが見通せない不安である。

 選挙中に掲げていた過激な政策から、少しずつ修正を図るかのような発言が聞かれる。

 廃止を唱えていたオバマ政権の医療保険制度改革は、「一部存続」を示唆した。不法移民を阻むメキシコ国境での壁建設については「一部はフェンスで代用」と語った。日韓の核武装を容認する趣旨の発言には「そんなことは言っていない」。

 軌道修正の兆しは、重要ポストの人事にも映し出た。

 政権移行チームのトップには政治経験が豊富なペンス次期副大統領を据えた。閣僚級の首席補佐官には共和党主流派のプリーバス氏の起用を決めた。

 こうした動きを、現実路線への転換として、手放しで評価するわけにはいかない。

 実現性が疑わしい政策に対する批判をかわそうとしているのか、今後の政策遂行に欠かせない党主流派との関係修復が主眼なのか。真意が見えない。

 首席戦略官・上級顧問に就くバノン氏は、人種差別や女性蔑視など過激な発言で物議を醸してきた人物だ。新設のこの役職にどんな権限があるのか、明確な説明もない。

 米国各地で連日、トランプ氏への抗議デモが続く。一方、非白人系やイスラム教徒の市民への嫌がらせも相次いでいる。

 まずトランプ氏がなすべきは、米社会を分断させないために、排他的な言動を許さない明確なメッセージを出すことだ。

 不安は国際社会にも広がる。これまでの秩序より米国の利害を優先させるのではないか。温暖化防止や核軍縮など国際社会と協調して積み上げてきた成果に背を向けるのでは――。

 トランプ氏は過去、交渉を有利にするため「手の内は見せない」と公言してきた。

 だが、大国がどんな行動をとるかわからない状況が、相手を不安に陥れ、過剰な反応を誘発しかねない危険を、トランプ氏は学ぶべきである。

 政権が交代すれば、政策も変わるのが必然だ。だが、民主主義や人権、法の支配の尊重といった米国の基本原則に揺るぎがあってはならない。

 トランプ氏は、そうした米国のあるべき姿を早急に示し、霧を晴らしてほしい。安倍首相をはじめトランプ氏と接触する各国首脳も、自国に絡む問題だけでなく、国際協調の利点への説明を尽くすよう、切に望む。

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