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 「中学校の部活動」「正社員という働き方」「子育ての理想と現実」。フォーラム面で考えてきたこれらのテーマには、ある共通の問題が横たわっていることが、みなさんの意見から伝わってきました。そこで、その問題、長時間労働です。どうすればいいのでしょうか。一緒に考える私たちにとっても、大きな問題です。

 ■こんな生活、いつまで

 朝日新聞デジタルのアンケートからは、長時間労働の渦中にいる人や経験者の悲鳴が伝わってきます。

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 ●「無理な長時間労働は確実に精神をむしばむ。1カ月中に3日しか休みがなかったとき、終盤は、自分でも驚くほどネガティブな思考に陥っていた。好きなことをしているとしても、肉体と精神の疲労は避けられないのだと実感した」(愛知県・30代女性)

 ●「保育士です。保護者対応、行事の計画、準備、作り物、会議、クラスの書類、等。早出で6時30分に出勤して、19時までいるのが当たり前。保育士が増えても、定時で帰れる臨時やパートが増えるのみでは、いつまでたっても改善されません。モンスターの親も多く、それが原因で、心がポッキリ折れて、やめる保育士を今までたくさん見てきました。監査の時には、タイムカードを隠す園長にあぜんとしました」(岡山県・40代女性)

 ●「学校の教員をしています。学校は『仕事の特殊性から、残業時間が読めないので、あらかじめ給料に残業代が上乗せ』とのことで、残業代は一切出ません。保護者が共働きという世帯が増えたいま、どうしても保護者とコンタクトをとろうとすると午後5時以降です。この時点で、すでに残業です。さらに、そこから面談、授業準備、教室清掃、校務分掌をすればあっという間に8時です。仕事をはじめて8年近く経ちますが、定時で帰ったことは一度もありませんし、不可能です。やる気ややりがいでカバーできる範囲を超えていると最近感じています」(静岡県・30代女性)

 ●「2012年、7月間にわたり月200時間以上の残業を強いられました。更にプロジェクトのスケープゴートにされ残業代が支払われないばかりか降格されました。平日は、ほとんど徹夜で夜中の2時ごろ、よく会社の屋上から飛び降りたい衝動にかられました。いま生きているのが不思議なくらいです」(東京都・50代男性)

 ●「IT関係の仕事で、過去に200時間を超す残業をしていた。今も夜寝られない。過重労働に対する罰則を強化するべきである」(静岡県・40代男性)

 ●「会社が裁量労働制を導入。給与は固定給だが、法律の上限まで働かないと帰ることが許されない。毎日22時まで働いて、土曜日は全て出勤しなければ上司から叱責(しっせき)を受けます。心身が疲弊してますます効率は落ちるし日曜日はベッドから抜け出せない。同僚も同じような生活でいつまでこの生活が出来るか心配で仕方ない。せっかく得た正社員の立場を捨てることも出来ず、毎日最小限の出費で出来るだけ貯金しています。多くの労働者が同じように劣悪化する職場環境に身を置き、一人ひとりが出費を抑えることでますます日本の経済が縮小すると思うと非常に心細くなる」(和歌山県・40代男性)

 ●「子供が、長時間労働によって自死しました。最初、会社は三六協定により責任はないと説明して帰りましたが、労働基準監督署に相談して労災認定されました。子供を守ってやれなかったことが、悔やまれる。電通のように、表に出る以外の人たちの事例がたくさんあります」(愛知県・50代男性)

 ■制度あっても機能せず

 長時間労働に対応する制度があっても、機能していない状況もあるようです。

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 ●「担当業務が多忙となり、休日出勤も当たり前のように行い月100時間以上の残業が2カ月続いたため、会社から健康診断を受けるように言われたが、残業申請は100時間以内で行ってくれと指示があった。残業は繰り越しして手当てしてもらったが、おかしな話である。残業手当が出るだけマシだと思う自分自身も情け無い」(神奈川県・40代男性)

 ●「Web制作会社で正社員として働いていました。仕事に終わりはなく、帰るタイミングが分かりませんでした。ほかの人も残っているので帰りづらく、お人よしの同僚ばかりで会社から残業代が出ないことに大して不満も漏らしません。自分だけが帰るわけにはいかない。みんな頑張っている。長時間労働が結果、業績アップに結びつきました。自分が迷惑をかけたくないと皆が思っていたので帰るわけにいかず、首を絞め合う結果となりました」(岐阜県・20代女性)

 ●「製造業です。若いころはまわりより収入もよく前向きに仕事していたが30代半ばになると体力的にきつくなってきた。自分の時間を金に換えてきてしまったので、スキルアップの時間もとれずこのまま体が本当の限界になるまでこの働き方をするしかないのかと将来が不安である」(千葉県・30代男性)

 ●「小売業です。定休日もなく開店前から閉店後も仕事は山ほどあります。会社からはサービス残業禁止と言われていますが、しないと終わらないし、残業を付けると仕事の優先順位を決めろと言われます。また、サービス残業が会社に見つかると本人、上司が降格処分を受けます。なので迷惑がかからないよう、サービス残業、休日出勤をしています」(三重県・40代男性)

 ●「ワーク・ライフ・バランスの推進のため、各部署で有給休暇の取得日数と残業時間の目標値があります。しかし、仕事量は多く、定時で帰れることはまずありません。目標達成のため、残業は申告できず、休暇を取得し、休日出勤するというくだらないことをやっています」(三重県・40代女性)

 ■本人の意思ではなく職場の規範 黒田祥子・早稲田大学教授(労働経済学)

 日本人は働くのが好きなのだという見方も根強いようです。本当でしょうか。早稲田大学教授(労働経済学)の黒田祥子さんに聞きました。

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 日本人、イギリス人、ドイツ人で比べると、実労働時間だけでなく、希望する労働時間も日本人は長いという結果になりました。そうなると希望しているのだから好きに働かせてあげなさいと考える人もいます。

 そこで、希望労働時間は何で決まるのかを検証しました。

 一つは職場の評価基準。「良い成果をあげるために働く時間を惜しまない人が評価される」職場に比べ、「一定の時間の中でできるだけ働くという人が評価される」職場では希望労働時間が週あたり1.61時間短い。

 次に顧客に無理難題を言われたときにどう対応するか。「無理してでもがんばる」職場の人は、「無理なので対応可能なスケジュールを提案する」職場の人よりも、希望労働時間が0.87時間長くなりました。

 本人の意思ではなく、できあがった職場の規範に応じて、希望労働時間も長くなっています。

 日本から欧州に異動した人を調べると、労働時間が減り、有給休暇は増えていました。ただ、欧州で働いた人にヒアリングした際、「効率的な働き方をして余暇も増えたなら、日本で浸透させて下さい」と言ったら、「それはできない」とみなさんに言われました。「みんなが長時間労働をしている職場で先に帰ることはできない」というのです。

 雇用を守るために、いざという時の「のりしろ」として長時間労働をしてきたとも言われてきました。確かに、負のショックが加わったときに雇用を守った企業とリストラした企業を比べると、雇用を守った企業の方が平時の労働時間が長めだという傾向はあります。しかし、「のりしろ」は最長でも1週間1時間程度。日本型雇用慣行の良い部分を守るために長時間労働を続けるしかない、という理屈にはなりません。

 国が一定以上の残業はダメだと強権を発動しても、業務量が変わらなければサービス残業が増えるだけです。職場の意識改革は進んでいるから、労使に委ねればいいという意見もありますが、一人ひとりが変えたいと思っていても、みんながそうならないと変えることはできません。国レベルでわかりやすい規制をつくり、企業や職場レベルでも働き方を変えていく。合わせ技が必要だと思います。

 (聞き手 編集委員・沢路毅彦)

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 くろだ・さちこ 著書に「労働時間の経済分析」(共著)。厚生労働省の「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」委員。

 ◇次回11日は『長時間労働:2』

 ◇アンケート「長時間労働」をhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「長時間労働」係へ。