アメリカンフットボール・Xリーグの年間王者を決める第30回日本社会人選手権ジャパンエックスボウル(JXB)が12日午後7時から東京ドームで行われる。ともに今季8戦負けなしの富士通(東地区、リーグ戦1位)とオービック(中地区、同2位)の対戦。JXBでの対決は3年ぶりで、過去オービックの3戦全勝だが、ここ2年のリーグ戦などでは富士通が3連勝中だ。4年連続出場の富士通が2度目の頂点に立つか、3年ぶりのオービックが最多優勝回数を9に更新するか。両チームのキーマンを紹介する。
■攻撃の道開く巨漢の腕 富士通OL・小林祐太郎(28)
体を張る汗かき役の攻撃ライン(OL)に誇りを持つ。「注目されるのは好きじゃないんです」。映画鑑賞と釣りを好む190センチ、120キロは、体を小さくさせ恥ずかしそうに笑う。
最前線で自分の右に並ぶ4人と連動して味方の走路を開き、クオーターバック(QB)がパスを投げる時間を確保する。左端のOLは右投げのQBにとって死角になりやすい背中側を守るため、特に重要ともいわれる。瞬間的に最大限の力を発揮する必要があるため、練習の動きからビデオで確認。「1足分ステップが大きい」など歩幅や手の角度など、イメージと一致するまで細かく修正する。
福島県出身。日大に入学して競技を始めた。恵まれた体に、OLでは5秒を切れば速いとされる40ヤード4秒9の脚力もあり、1年時に19歳以下の日本代表に選出。今は日本代表常連だ。
相撲の立ち合いのような激突を1試合で何十回もこなすため、翌朝になると体中に激痛を覚える。過酷な競技を続けられるのは「両親に元気な姿を見せたい」思いが強いからだ。入社準備で同県泉崎村にある実家に戻っていた11年3月、東日本大震災が発生した。後に半壊と診断された家の壁にはひびが入り、停電や断水も起きた。そんな大変な状況でも、両親は快く送り出してくれたという。父・福夫さんの「今やれることをしっかりやってこい」という言葉は今も胸に残る。
オービックにはJXBで勝ったことがない。それだけに「圧倒したい」とその瞬間を心待ちにしている。
■元練習生、得点源に急成長 オービック、キッカー・星野貴俊(26)
急成長を遂げているキッカーだ。準決勝のパナソニック戦では、タイブレークに持ち込む同点フィールドゴール(FG)を決めた。
2014年は練習生、昨季は試合出場はない。開幕前は未知数だった。メンバー登録は最後。期限寸前まで、丸田と練習でのキック成功率で争って滑り込んだ。ただ、序盤は絶対的な存在ではなく、FGを狙える位置でも任せてもらえないこともあった。「信頼を得るために練習でも絶対に1本も外さない。まずはそこからだった。今も試合より練習の方が緊張します」
富士通戦も接戦が予想されるため、自身の出来が勝敗を左右しかねない。
千葉県出身。スポーツトレーナーを目指し進学した帝京平成大での実習先が、アメフット部だった。関東学生リーグで3部の下に位置するエリアリーグ所属の同部は部員数がぎりぎりで、勧誘されて入部した。
卒業後は千葉県総合スポーツセンター、まちづくり公社グループでトレーナーとして勤務。13年冬に、オービックの地域交流イベントを手伝った際、鈴木コーチからトライアウトを勧められたのが縁で今に至る。 今季の活躍は3年前から取り組む新フォームの成果だ。入団当時は高校までサッカーに明け暮れた名残で、フォロースルーで体が左に流れる傾向が強く、引っかけてしまう癖があった。前に押し込む感覚を反復し、重心の位置や助走の入り方まで修正してきた。
決勝に向けてコンディションはいい。「50ヤードまではいける」と不敵に笑う。
■攻撃多彩な富士通VS.鉄壁守備のオービック パナソニック・荒木延祥監督
今季、両者と対戦したパナソニックの荒木延祥監督にJXBの展望を聞いた。
◇
本当にどちらが勝つか分からない試合です。
4年連続JXBに進んだ富士通は総合力が高い。我々が対戦した時はキックオフリターンTDとファンブルリターンTDで、攻撃以外で14点も取られた。攻撃の中心は3年目のQBキャメロン選手。相変わらず素晴らしいパフォーマンスを見せてます。ただ、オービックの守備陣、特にDLはリーグトップの実力があります。富士通OLは日本代表選手が多くいますけど、オービックの強力DLを1試合通じて封じ込めるのは難しいでしょう。
オービックは2人のQBをどのように起用するか。
ここまでニューハイゼル選手がスターターを務めてますけど、我々との対戦では第4Qに菅原選手が出てきて一気に流れを変えられた。試合を作れる菅原選手を先発させるのも面白い。去年のJXBはフィールドゴールの成否が明暗を分けました。両チームにいいキッカーがいますし、今回もそんなわずかな差が勝敗を分けると思います。
■伝説の一戦 「金岡マジック」劇的V
この大会の名称は2005年に「JXB」となるまで「東京スーパーボウル(TSB)」だった。今回で計30回の節目だが、最高の試合とされるのは99年のTSBだ。
クラブチームのアサヒビールと、実業団の鹿島の対戦。アサヒビールは第4Q終盤まで12―16とリードされていた。試合残り2分を切ったとき、鹿島のRB池場がファンブル。アサヒビールは残り1分45秒、自陣11ヤードで攻撃権を得た。
89ヤード先のエンドゾーンを目指す攻撃が始まった。QBは京大出身の金岡(かなおか)。この日はパスが不調だった。だが、最後のチャンスで吹っ切れたように投げ込み、どんどん決めていく。ランも挟んで、ゴール前6ヤードへ。右へ出る金岡。敵がタックルにくる。ぶつかられるその瞬間、右腕を振り抜く。ボールはエンドゾーン内にいたWR梶山の胸に。残り時間は15秒。劇的な逆転TDに東京ドームは沸いた。
最後の攻撃で、金岡は10回中8回のパスを決めた。DLの佐々木主将は「金岡マジック!」と叫び、常に冷静な金岡が涙を流した。
■両チームの戦いのあと
【富士通(1位)】
<レギュラーシーズン>
○29―24 IBM
○20―7 アサヒビール
○40―0 オール三菱
○20―13 パナソニック
○34―0 エレコム神戸
○17―10 ノジマ相模原
<JXBトーナメント>
○42―6 アサヒ飲料
○28―26 IBM
*
【オービック(2位)】
<レギュラーシーズン>
○14―13 ノジマ相模原
○54―7 明治安田
○27―13 リクシル
○35―0 アサヒ飲料
○24―23 IBM
○20―14 エレコム神戸
<JXBトーナメント>
○35―0 エレコム神戸
○ 9―6 パナソニック
■両チームの1試合平均データ
富士通 オービック
得点 28.8 27.3
失点 10.8 9.5
合計獲得ヤード 318.3 312.1
(パス) 186.5 260.1
(ラン) 131.8 52.0
合計喪失ヤード 268.4 217.0
(パス) 155.1 154.3
(ラン) 113.3 62.8
(成績は小数点第2位を四捨五入)
■日本社会人選手権の戦績
1987年 レナウン 31-28 シルバースター
88年 レナウン 28-20 松下電工
89年 アサヒビール 14-9 日本電気
90年 松下電工 14-6 オンワード
91年 オンワード 49-10 サンスター
92年 アサヒビール 21-7 松下電工
93年 アサヒビール 13-0 サンスター
94年 松下電工 48-28 オンワード
95年 松下電工 54-20 リクルート
96年 リクルート 30-10 オンワード
97年 鹿島 48-12 松下電工
98年 リクルート 45-24 アサヒビール
99年 アサヒビール 18-16 鹿島
2000年 アサヒ飲料 20-18 松下電工
01年 アサヒ飲料 14-7 松下電工
02年 シーガルズ 14-7 富士通
03年 オンワードスカイラークス 13-10 アサヒビール
04年 松下電工 15-6 アサヒビール
05年 オービック 25-16 松下電工
06年 オンワードスカイラークス 24-21 鹿島
07年 松下電工 33-13 富士通
08年 パナソニック電工 28-14 鹿島
09年 鹿島 21-14 富士通
10年 オービック 20-16 パナソニック電工
11年 オービック 24-17 富士通
12年 オービック 27-24 鹿島
13年 オービック 24-16 富士通
14年 富士通 44-10 IBM
15年 パナソニック 24-21 富士通
(シルバースターは現アサヒビール、サンスターは現エレコム神戸、リクルートとシーガルズは現オービック、松下電工とパナソニック電工は現パナソニック、鹿島は現リクシル)
■観戦のご案内
◇チケット 指定席=前売り2700円、当日3200円▽自由席=前売り2200円、当日2700円(税込み、高校生以下無料)
◇販売 ローソンチケット、チケットぴあ、e+(イープラス)、CNプレイガイド、その他コンビニなど
◇問い合わせ 日本社会人アメリカンフットボール協会事務局 電話03・6718・4441
◇テレビ放映の予定 「NHK BS1」で12日午後7時から生中継
<主催> 日本社会人アメリカンフットボール協会、朝日新聞社、日刊スポーツ新聞社
<特別協賛> 大正製薬
<後援> NFL
<特別協力> 東京ドーム
◆この特集は遠田寛生、大西史恭、篠原大輔が担当しました。
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