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 年末年始のサッカー中継ではゴールキーパーの好セーブが光る試合が多々ありました。その役割を、新聞づくりでは、記事・紙面の品質管理のしんがりを務め、訂正という「失点」を防ぐ校閲記者が担います。

 出版社の校閲部を舞台とした昨年のテレビドラマ以降、この仕事が世の関心を集めています。本紙「天声人語」が題材にしたり、通販雑誌に校閲者座談会が載ったりし、本社見学者を校閲部門にご案内する際には「ドラマ、みました?」との声も。一方で読者から「訂正が多すぎる」「校閲者はいないのか」といった批判が日々届きます。そんな新聞校閲の現場はどんな様子でしょうか。

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 できごとの急変に対応する出稿部門は頻繁に電話が鳴り、取材現場とやりとりするので騒々しいですが、校閲部門一帯は静寂そのもの。テレビも定時ニュース以外は音を消し、私語も発さず集中力を高める校閲記者たちは、個々の原稿を印字したA4の紙や記事が載った紙面大の「大刷り」上の字句を赤鉛筆でなぞってひたすら読みこみます。字句や言葉の使い方は正しいか、人権を侵害したり読者や関係者を不快にさせたりする表現はないか、などを「赤本」と呼ぶ社内の用語取り決め集や各種辞典でチェックしていきます。

 続いて、記事の内容に事実誤認や過去記事との食い違いはないか、使われた数字に取り違えはないか、などを資料集やインターネットで探せたデータなどとつきあわせます。本文以外にも見出し、データ満載のグラフや表、写真とその説明文そして欄外の日付、目次、天気予報など、紙面の隅々まで目をこらします。

 紙面を印刷工程に回す降版時刻が近づくにつれ、何度も配り直される大刷りで、指摘した部分は修正されているだろうかと赤鉛筆の動きは速まります。「文章の流れが変では」と気になると出稿部に駆け込みます。そこに新たなニュースが入ってこようものなら……。息をのむような緊張が朝から深夜まで続きます。

 数々の「ファインセーブ」で訂正を免れても、それらが表に出ることはありません。逆にこれだけストイックに作業してもみつけきれない誤りがあり、訂正につながります。

 東京電力福島第一原発事故に関する記事の取り消しなど2014年の一連の問題の後、どんな小さな誤りもきちんと正そうという方針のもと訂正数は急増しました。ですが、16年は前年より28%減り、月別では一連の問題以前の水準まで下がりました。取材記者自身が交代で校閲する地域面についても、昨年から地方総局に対する校閲部門の支援を強化し、訂正数は減る傾向にあります。

 訂正の責任は出稿部門を軸に、紙面編集部門、校閲部門も連なるのですが、東(あずま)浩一・東京校閲センター長は「訂正数の8~9割程度は十分な時間があれば校閲で救えたはず。誤りを見逃すと悔しくて自己嫌悪に陥ります」と話します。

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 サッカーでは「後ろ(キーパー)の声は神の声」。出稿・紙面編集部門を背後で支える校閲部門の声は大切にされているのでしょうか。前述の原発事故報道の際、校閲記者も掲載内容の改善を求める声をあげました。それが生きなかったことを重く受け止めつつ、東センター長は「校閲記者は取材出稿記者と対等な仲間であるべきだということを再認識させたできごとでもあった」と語ります。品質管理に関わる「後ろの声」を大事にする雰囲気は、以前に比べると広がっているようです。

 臆せず声をあげるためにも、校閲記者は時と共に意味や用法が変わりゆく言葉を追い続けます。東京本社では週1回、日々の作業で迷った言葉を持ち寄り議論する用語ミーティングを開きます。山積みの各種用語集の傍らで、例えば、若手が「金管楽器『ユーフォニウム』の表記は最近、『ユーフォニアム』が優勢なのでは」と切り出すと、先輩が私物の冊子「教育用音楽用語」を示して「この資料では『ア』表記だね」。

 こうした言葉の知識を生かして記事を自ら書く場も増えました。連載「ことばの広場」や「Re:お答えします」、デジタル版には「ことばマガジン」。「withnews」にも昨秋から進出しています。

 そのデジタル版全体の発信量も増大の一途です。それらにどう向き合うのかが校閲業務の新たなテーマになっています。編集部門全体を担う長(ちょう)典俊ゼネラルマネジャーは「情報が一瞬にして広がるだけに、丁寧な表現が必要です。より早く正確な発信を支えるため、校閲態勢の強化は大きな課題」と受け止めます。

 世の中に大きな影響を及ぼしかねない偽ニュースさえ流れるインターネットの世界だからこそ、新聞の発信内容の信用性を高める校閲の役割はむしろ強みになるのではないでしょうか。長年培ってきた新聞社の貴重な「資産」として、大切にしていきたいものです。

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 まつむら・しげお 1959年生まれ、84年朝日新聞社入社。be編集部・経済部デスク、さいたま総局長、西部本社編集局長を経て昨年6月から現職。

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