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 (22面から続く)

 ■朝日新聞DIALOG 日本の未来を語ろう

 ■パネル討論

 パネル討論では、スマート農業を実践する住珠紀・すみ農園代表、内田智也・内田農場代表取締役が登壇。小泉進次郎・自民党農林部会長、三輪泰史・日本総合研究所創発戦略センター・シニアスペシャリストとともに、スマート農業の現状や課題などについて議論を交わしました。(司会は小山田研慈・朝日新聞編集委員)

    ◇

 住さん 勤務していた旅行会社を辞め、5年前に就農しました。今はハウスでのトマト栽培が中心です。ハウスは自動給水。暖房機や二酸化炭素の発生器、換気もセンサーを使って自動で動きます。

 小山田 女性6人で運営されています。農作業は大変だったのでは?

 住さん 畝(うね)立てとかそういった肉体労働は発熱するほど大変でした。一生の仕事にしようと思ったはずなのに、「これは60歳まで体がもたない」と。70歳を超えても現役でいられるのは施設栽培だと思い、こちらを選択しました。

 小山田 内田さんは約60ヘクタール、350カ所ほどの田んぼを経営しています。遠いと10キロ以上離れたところもありますね。

 内田さん 水田にセンサーを立て、水位や水温、気温などの気象データをクラウドサーバーで管理し、タブレット端末やアップルウォッチで確認しています。農薬や肥料の使用量を管理するシステムもあります。

 小山田 スマート農業の現状とプラス面は?

 三輪さん 目と頭、手の技術に分かれる。センサーやドローンが農家の目のかわりに。AIなどが、日本の農業を支えてきた匠(たくみ)からバトンタッチをする。目と頭で得た情報を、自動運転のトラクターなどがいかします。1人あたりの農地が増えても、良いものをたくさん作れるのが利点ではないでしょうか。

 小泉さん (農業での)テクノロジーに対する評価がまだまだ低いと感じます。2人から見ていかがでしょうか。

 住さん 導入にすごく勇気が必要でした。もう本当に清水の舞台から飛び降りるような気分で借金しました。そこはすごいデメリットですね。

 内田さん 導入しにくいのは、農家自体が(現状に)あまり疑問を持っていないから。疑問に思ったとしても行動しないというのが一番大きいのかなと感じます。人工知能なども、トラクターなどと同じ農機具の一つとして捉えていく必要があります。

 小泉さん 農業に経営感覚をしっかりと持ち込むことによって、スマート農業が普及していくというロジックですね。

 内田さん センサーもまだ高額で、広い農地に何百本も設置するというのは非現実的です。

 小山田 スマート農業は流通にも役立ちますか。

 住さん 農業界はまだ、通信手段が紙ベース。出荷時に生産履歴を出さなければいけないのですが、すべて紙。ファクスが送れない場合もある。スマホでインターネットもできる状況なのになぜと不思議に思う。

 小泉さん 紙のほうが親しみがあるのは理解できますが、新たな選択肢も必要。これからの世代のために通信手段をちゃんと設けてほしいですね。

 小山田 スマート農業の未来はいかがでしょう。

 三輪さん 費用面はメーカーの努力に加え、ドローンや自動運転のトラクターなどを地域でまとめて購入し、時間ごとに分けて貸していくといった仕組みが必要ではないでしょうか。

 小山田 スマート農業でうまく活動しているケースは他にもありますか。

 三輪さん センサーなどを使った取り組みは、全国でかなり増えてきました。効率化が注目されますが、スマート農業で作った野菜はおいしい。例えば、トマトがどうすれば甘くなるのかも分かる。「糖度いくつのトマトがいつほしい」といったオーダーメイド型にもなっていくでしょう。

 内田さん 作る側と買う側のマッチングがうまくいっていないのが、お米余りの原因だと思っています。やはり、お客様が欲しがるものや喜ばれるものを作るというのがいちばん大事。

 住さん 農家自身も販売促進というか、消費者研究をしなければいけないのではないかと思います。

 小泉さん マーケティング、ブランディング、そして市場調査を経済界と農業界を挙げて取り組んでいくべきです。

 三輪さん スマート農業はテクノロジーの最先端。きちんと導入できるかどうかで、20年後、30年後に日本が世界トップクラスの農業国になれるか決まる。それぐらい今は大事な時期だと思います。

 ■ニーズに応えコメ15種 地の利をいかしトマト

 熊本県阿蘇市の「内田農場」は、主食用、もち用、酒用など約15種類のコメをつくる。内田智也代表取締役(32)は「おそらく日本一の品数かも」という。

 国内のコメづくりは、コシヒカリなどのブランド米か、補助金が手厚い飼料用米に二極化している。しかし、需要が増えているのは、比較的安い外食用のコメや輸出が伸びている日本酒用の酒米。地元の焼き肉店に、コメの軟らかさが「焼き肉にあわない」と取引を断られた経験から、取引先のニーズにこだわる。

 住珠紀代表(45)が愛知県瀬戸市で営むトマト栽培などの「すみ農園」は、都市部に近い地の利をいかした経営が強みだ。近くの大型スーパーの生鮮食品売り場には、住さんのトマトの専用コーナーがある。3月のある日は、1袋5個入りのトマトが300円ほどで、客が次々と買い物かごに入れていく。十分に熟してから出荷できるので、鮮度もいいし、味が濃い。

 ■「格好いい」働きたい職業に 福永庸明・イオンアグリ創造社長

 スマート農業は別に機械だけの話ではなく、「格好いい農業」で良いと思うんです。「いったいどんな農業やねん」と考えればいい。女性も活躍しやすく、若者が本当に働きたい職業のひとつにしたい。

 イオン農場は2・6ヘクタール、従業員4人からスタートし、今は350ヘクタール、500人超になりました。約30品目の野菜などを21農場で育てています。グローバルGAPも取得しました。

 経営には分析が欠かせない。情報端末を入れて、生産の「見える化」をするのは当たり前。成功したこと、失敗したことをほかの農場と共有する。1年でも、20農場あれば20回経験したことと同じです。

 グローバルな視点を持って農業に取り組む、地球で通用する物差しを持たなければいけない。20年後でも100年後でも、世界に誇れる農業になればいいなあと思います。

 ■「匠の技」継承、安定生産貢献 松本幸則・パナソニック全社CTO室主幹

 パナソニックは家庭電化製品で人が生活する環境を適正化してきました。この技術で植物の生育環境を整え、安心安全に安定して生産することに貢献したい。

 例えば、建物内で照明を制御して作物を育てる「人工光型植物工場」。様々な環境で栽培したデータを蓄積すれば、最も早く最もおいしく、安定的に作物を生産できる。光や養液を変えて、味や食感や栄養素を好みに合わせて作り替える技術も開発中で、腎臓病患者のための低カリウムレタスも作っています。

 スマートフォンなどで農薬の散布時期など栽培記録を取れるクラウドサービス「栽培ナビ」は、国際基準に沿った認証の取得にも役立ち、熟練農家の作業を見える化して「匠(たくみ)の技術」を若い世代に継承することも期待できます。工業技術や制度で農業を持続的に成長する産業にするのが、スマート農業だと思います。

 ■データの蓄積がカギ 小山田研慈・本社編集委員

 農業政策を長く取材してきたが、霞が関や永田町では、補助金や関税の話が中心だった。「守り」が優先され、「攻め」のためのスマート農業は、どちらかといえば後回しにされてきた。

 しかし、現場ではすでに浸透し始めている。真剣に農業で食べていこうという人にとっては必要だからだ。企業も商機とみている。

 最大のカギは、データの蓄積だ。パネル討論に参加した内田さんによると、勉強会で良い農法とされたものを、自分でデータをとってみたら、大きな効果はなかったという。データがたまることで、従来の通説を検証できる。

 個々の農家が正確で詳細なデータをためていく。膨大なデータをつなぎ合わせて分析したら、農業の大改革につながる可能性がある。政府や研究機関も今はそんなデータはもっていない。

 高齢化と後継者不足で農家人口は200万人を切った。今は余っているコメも20~30年後には、農家が減りすぎて自給できなくなるかもしれない。コメ以外の現場も人手不足が続く。食料の安定供給のためにはスマート化は避けられない。

 ◆この特集は、山崎啓介、松川希実、野口陽、編集委員・小山田研慈が担当しました。

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