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 「パブリックエディター(PE)は何をしているのか」という読者の声を最近もいただきます。4人のPEは月3~4回、毎回1時間半~2時間の会議に出て、朝日新聞の報道への読者や社外の意見を起点に議論し、編集部門に説明や改善を求めます。これが最大の仕事で、直接出社できなくてもテレビ電話で参加することもたびたびです。2016年度は35回、制度発足から2年で76回。3年目を迎えたこのPE会議が編集部門とどんな関係にあるのかを報告します。

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 編集部門は近く、記事や見出しが性別による差別・偏見につながらないようにするための社内手引「ジェンダーガイドブック」を作成から15年ぶりにリニューアルします。そのきっかけの一つがこの会議でした。

 昨年8月、本を推薦しながら読者の悩みに答える読書面の記事が議題になりました。「クラスの男子に『胸をもませるかパンツを見せて』と言われる」という女子中学生の相談に「悪ふざけには『大人』を見せて」「手をぎゅっと握って」という女性タレントの考えを回答としてまとめたものでした。読者から「セクシュアルハラスメントを容認するのか」などの声が寄せられ、PE会議も「セクハラは人権侵害という意識が社内にないのか」などと指摘。PEの小島慶子さんは11月のこの欄でとりあげ、「全社的な人権教育を含めた誠実な対応を」と求めました。

 編集部門内では、賛同の声があがる一方、当惑や反発もありました。部門内で対応を検討し、「セクハラについての本質的な理解が必要」(長典俊ゼネラルマネジャー)と受け止め、社内研修などで使う「ジェンダーガイドブック」改訂版にこの読書面記事と小島さんの指摘を載せることにしました。PE会議の問題提起は、記事・紙面づくりにおける記者の姿勢にも及んでいます。

 昨年11月、大阪本社版のテレビ欄で、ドラマの主演アイドルの髪の色への違和感をつづったコラムに、読者から「意図的演出なのに的外れ」との批判が多数寄せられました。当初「論評の範囲内。静観したい」とした編集部門に対し、PE会議は「紙面は対話の場」(小島さん)、「声は届いています、ということが読者に伝わるようにした方がいいのでは」(河野通和さん)と提案。ラジオ番組や雑誌編集の場で、聴取者や読者と身近にかかわってきた経験ならではの助言、と感じました。

 この話を伝え聞いた筆者は、次のコラムの末尾で、多数の読者指摘があったこととともに「主演者の魅力をもっと生かせたのに、と書いたつもりですが、伝えきれませんでした」としました。すると、読者からはこの筆者への励ましも届きました。PEも「読者との信頼関係につながる対話になったのでは」と評価しました。

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 こうしたPE会議の「公開版」として16年度から、27年続いた紙面審議会を引き継ぐ「あすへの報道審議会」(あす審)も始めました。今年3月の第3回会合は会社員、保育士、主婦ら6人の読者を招き、連載「子どもと貧困」「小さないのち」など子どもをめぐる報道についての意見や注文を、編集部門の役員、局長、部長らに直接ぶつけてもらいましたが、企画・進行ではPEが積極的に、重要な役割を担いました。

 前身の紙面審は著名な経営者、評論家、学者らの委員が、主に本社が提示したテーマから問題提起したい記事を選び、編集部門の見解を尋ねました。今回のあす審は企画段階からひと味違う経過をたどりました。

 テーマ設定では、参加読者に親しみのある「『小さないのち』など生活型で」(湯浅誠さん)、「暮らしに密着した話題を」(河野さん)、議論の進め方でも「読者の素朴な意見をPEがまとめて編集側の考えを探れば、読者は『自分の生活実感も世の中の一部なんだ』と励まされる」(小島さん)といったPEの意見を、いずれも採り入れました。

 どんな展開になるのかと編集部門側にも不安がありましたが、当日の議事は、今回のテーマにも詳しい社会活動家の湯浅さんらPEの主導で進みました。まず参加読者だけと向き合って日ごろの思いを引き出し、編集部門の面々が参加したところで読者とともに意見や疑問を投げかけ、計3時間余の議論を深めました。参加読者からは「湯浅さんらがよい流れをつくってくれた」、内容を報じた特集記事に他の読者からも「広く市民の声を吟味していて安心した」との感想が寄せられました。

 このような「読者に開かれた窓」(河野さん)としてのPEの活動が編集部門に浸透し、信頼しあう関係になっているのか。道半ばというのが社員としてPE会議に参加する自分の認識です。窓が開いても社内が心を閉ざしては意味がありません。新年度の重要課題と考えています。

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 まつむら・しげお 1959年生まれ、84年朝日新聞社入社。be編集部・経済部デスク、さいたま総局長、西部本社編集局長を経て昨年6月から現職。

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