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 あなたの新聞に対する信頼度は何点ですか?

 新聞通信調査会の世論調査によれば、新聞の情報に対する信頼度は2016年に68.6点と、08年の調査開始以降で最低です。加えて朝日新聞は、吉田調書報道などを始めとする一連の不祥事があり、ダブルパンチの状態です。パブリックエディターは、その危機的状況を受けた信頼回復措置として創設されました。

 世界的な「分断」状況、ソーシャルメディアの発達など、信頼度低下の要因は複合的です。簡単に答えは出ませんが、私は「見たいものしか見ない」という人間の性(さが)に抗(あらが)うことが信頼回復に不可欠だと思います。

 「どうせみんな自分に都合のいい事実を取り上げているだけ」という冷めた見方が蔓延(まんえん)し、一つしかないはずの真実に「他なる真実」が対置され、どちらを認めるかは本人次第という事態が世界中で進行しています。トランプ現象、憲法施行70年、阪神支局襲撃30年(連載「ゆがむ事実」)などこの間の紙面を見ても、この現象が繰り返し語られています。

 新聞には、この状況を実践的に克服する使命があります。それが民主主義社会の中で報道が果たす役割であり、報道の自由が守られるべき根拠であり、朝日新聞社という会社の存在意義だからです。

 そのためには、自分に都合の悪い事実にも向き合う必要があります。その姿勢が、自らの取り上げる事実の価値を高め、「偽ニュース」を圧倒する説得力をもたらすからです。

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 ――そう思っていたら、試金石と感じる出来事が起きました。長時間労働問題です。

 政労使で長時間労働規制が合意されました。大きな契機となったのが一昨年末の電通の過労自殺事件でした。朝日新聞は、これを手厚く報じ、高橋まつりさんの一周忌に際しては母親の手記全文を1面トップで掲載。東京本社版は「働く全ての人 意識変わって欲しい」という言葉を見出しとしました(16年12月25日付朝刊)。世の中で「人間らしい働き方」を求める声が強まり、朝日もそれを強めました。

 ところが、その朝日新聞社が財務部門社員の長時間労働問題で、労働基準監督署の是正勧告を受けていました(同月10日付朝刊)。記事には3月の法定時間外労働が「労基署に届け出た上限を4時間20分超える85時間20分となり」とありました。この部署の残業時間の上限は81時間です。私は驚きました。高橋さんの死を悼み、電通を批判的に報じてきた朝日新聞社が、過労死ラインを超える残業時間を設定していました。

 加えて、新聞社にはさらなる難問があります。記者の働き方です。

 記者はその専門性に鑑み「裁量労働制」という残業時間の概念のない働き方になっています。仕事は「記事」という成果物で評価され、労働時間を自分で管理することが求められます。他方、裁量労働制には、際限のない長時間労働を招き入れるリスクも指摘されています。しかし、これまでの働き方改革報道の中では、自社の働き方は取り上げられてきませんでした。

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 そこで、編集部門のトップである西村陽一・常務取締役編集担当や、長典俊ゼネラルマネジャーに聞いてみると、「一律の時間抑制は難しい」と口をそろえます。新聞の命は取材力。事件の発生は時間を選ばないからです。ただ、これまでの働き方を是認するわけではなく、公休日取得の徹底、報じる中身の検証、業務の効率化を行う中で、朝日新聞社なりの働き方改革を行うとのことでした。

 確かに「夜討ち朝駆け」と言われる早朝・深夜の幹部宅訪問が日常化している現場の記者に聞いても、いざという時に重要な情報を得るには信頼関係の構築が必要で、取材活動から属人的な要素は拭いきれないと言います。交代制を導入すれば済むという単純な話ではないようです。

 他方、それぞれの特殊事情を「できない理由」として持ち出せば、ウチだってと言いたくなる業種・企業は大量にあるでしょう。裁量労働制にすれば無制限ということであれば、残業時間規制の抜け道として悪用されるおそれも生じます。

 難しい問題です。ただ、今月14日に始まった「働き方改革を問う」シリーズ(日曜朝刊)の初回の最後には「(8回の連載)終了後に記者自身の働き方についても取り上げます」との一文が載りました。ようやくです。

 己を問わずに他を批判するのは簡単ですが、それは新聞に対する信頼感を蝕(むしば)んでいきます。ぜひ真摯(しんし)に向き合っていただきたい。

 「ゆがむ事実」の記事には評価の声が寄せられました。

 「人々もメディアも自分たちの信じたいことのみを受け入れ、伝えていないか、見たいものしか見ようとしないのではないかという軸となる問題提起がしっかりしていた」(東京・30代女性)と。

 この評価を裏切らない紙面展開を期待します。

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 ゆあさ・まこと 社会活動家、法政大学現代福祉学部教授。1969年生まれ。2008年末に「年越し派遣村」村長。著書に「反貧困」など。

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