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 連載「働き方改革を問う」(全8回)では、改革の行方とともに、過労死につながりかねない長時間労働や、処遇が不安定な非正規雇用など「働く現場」の実態を掘り下げました。今回は、私たち記者自身の働き方を考えます。長時間労働をどう見直すかは、報道機関が問われている課題でもあるからです。

 ■朝日新聞は

 5月15日、東京・芝浦にある東芝本社ビル。2016年度の決算見通しを発表する記者会見には300人超の記者らが集まった。

 朝日新聞の記者は、電機担当の川田俊男(37)をはじめ約10人が出席。指名された川田は、綱川智社長に「赤字をどう受け止めているのか」と質問した。

 日本を代表する総合電機メーカーの東芝は、米国での原発事業で巨額損失を出し危機的な状況にある。経営陣の判断ミスが、グループ全体で約15万人の従業員とその家族の暮らしを揺さぶる。どうしてこうなったのか、これからどうなるのかは大きな関心事だ。

 川田はこの日、役員を出社時に取材するため、午前7時ごろから本社の玄関口に待機し、会見が始まる午後2時までロビーで原稿を書いた。会見の速報は、同僚がニュースサイト「朝日新聞デジタル」に出稿、朝刊1面や2面向けの原稿は数人で分担した。デジタル対応と紙面づくりを同時に進めるには人手が必要だ。

 夜は関係者宅に向かった。いわゆる「夜討ち朝駆け」と呼ばれる取材だ。重要な情報を持つ人物ほど日中に会う約束は簡単にとれない。会見の説明だけではわからない「真実」に迫るには、こうした取材が欠かせない。携帯電話で取材できる信頼関係を築くには息の長い取材がいる。結局、帰宅したのは翌午前0時ごろ。5時半には、再び別の関係者宅に向かった。

 昨年末に東芝の巨額損失が発覚してから、平日はこんな生活が続く。長時間労働だと自覚しているが、大きなニュースが起きれば追いかけるしかない――。記者とは、そういう仕事と考えてきた。記者歴16年目。神戸総局や名古屋報道センターで、警察や検察取材を担当した4年間も似た生活だった。ただ、1歳の長女の育児を妻に任せきりで、育休からの復帰で協力できないのはつらい、と感じる。

 東京経済部は約70人の記者で、民間企業の動きや金融・マーケット、経済政策などをカバーしている。年明けから、数人が取材の応援に加わり、通常の業務を手伝ったり、夜討ち朝駆けを分担したりしている。

 それでも、取材すべきこと、取材したいことは積み上がっていく。記者にとって、「取材を尽くす」という基本動作と、「働く時間を減らす」ことの線引きは簡単ではない。

 川田は言う。「やりがいのある仕事だからと長時間労働を当たり前としてきた記者の意識を変えないといけない。もっと仕事の取捨選択が必要だ」

 ■代休徹底に着手

 朝日新聞社は、国内外で約2千人の記者が働き、原則「裁量労働制」が適用されている。社外で取材する時間が多いため、正確な労働時間を把握することが難しいからだ。記者は、裁量労働制を適用できると法律で定められた19業種(専門業務型)のうちのひとつで、日々このぐらい働くという「みなし労働時間」を労使で取り決めている。

 記者の働き方は取材するテーマによって様々だ。夜討ち朝駆けを続ける記者は、若手・中堅を中心に政治部、社会部、地方総局などに多数いる一方、そうした取材は少なくても築いた人脈を使って読み応えのある記事を書くベテランもいる。大きなニュースを追いかけて多忙な日々を送ることもあれば、落ち着いて取材する余裕ができる時もある。働き方の平均像がつかみづらい分、どう働くかは記者の「裁量」に委ねられてきた面もある。

 だが、電通社員の過労自殺問題をきっかけに、長時間労働が改めて社会問題となり、是正に本腰を入れる企業は増えてきた。裁量労働制は「長時間労働を助長しかねない」と指摘する専門家もいる。

 記者が所属する報道・編成局はこの春から、出稿部ごとに、記者の働き方に合わせた仕事の見直し作業に着手している。

 例えば、政治部は現場の記者を中心にワーキングチームを設置。休日をしっかり取るようにし、仕事が入ってしまった場合は必ず代休を取らせるようキャップ、デスクらが徹底するなどの報告書をまとめた。事件・事故を警戒する宿直業務がある社会部は、宿直に就く回数を減らしたり、労働時間を短くしたりするために、ローテーションの見直しなどを進めている。

 朝日新聞社は2014年から、パソコンで入力する「出退勤記録」を導入している。健康管理と長時間労働の是正をめざす仕組みで、業務を始めた時間と終えた時間を登録する。1カ月の出退勤時間の合計が社内で定めた時間を超えると産業医による面談などを促す。蓄積したデータは健康管理の指導に役立てている。

 ■11時間休息、保障も 各社見直し

 記者の働き方を見直す取り組みは広がりつつある。

 大手通信社の共同通信社は5月末に「働き方改革報告書」をまとめた。時間外・休日労働時間の上限や年間の休日取得日数の数値目標を掲げ、具体策も入れた。目標は記者もそれ以外の職員も共通で、記者としては実態の労働時間よりかなり少ない数値になっている。

 持ち場での代替性を高めることも進める。例えば、各省庁の記者クラブ。政治部や社会部など複数の部の記者が担当していることが多いが、カバー体制は部ごとが慣例。それを部を超えて対応できないかを提案する。時短や在宅勤務など多様な働き方を認めることも促進したいという。担当者は「抜本的に変えないと今のままの働き方では組織が回らなくなる。『記者の仕事はこういうもの』という考えは、今の世の中では通用しないという危機感がある」と話す。

 NHK、日本経済新聞社、読売新聞社に記者の働き方の見直しについて取材したところ、NHKと日経は、見直しに取り組んでいるが、始まったばかりで具体的に公表できるものがないとし、読売は「取材手法にかかわるため公表できない」として、回答を得られなかった。

 地方メディアでも、山陽新聞社(岡山市)は終業から始業までに11時間の休息を保障する「勤務間インターバル」を4月から試験的に始めた。選挙など繁忙期は例外としているが新聞社では異例の試み。RKB毎日放送(福岡市)は、4月から記者が取材先に夜回りする場合は、キャップに「事前申請」するようにした。必要なものだけに絞るようチェックするためだ。

 1月~2月にエン・ジャパンが実施した調査(回答408社)によると、過去1年間で「過労死ライン」と呼ばれる月80時間を超える残業をした社員がいるかとの問いに、40%が「いた」と回答。業種別では「広告・出版・マスコミ関連」が64%と最も多く、「IT・情報処理・インターネット関連」(48%)、「製造業」(45%)が続いた。

     ◇

 植松佳香、大宮司聡、川本裕司が担当しました。

 ■改革、実情に応じて進めます ゼネラルマネジャー兼東京報道局長・長典俊

 朝日新聞は、長時間労働の問題など官民の働き方改革の取り組みと働く現場の実態を精力的に報じてきました。前厚生労働事務次官の村木厚子さんは紙面批評で「多角的に長く報じることの大切さ」を訴えました。一方で、パブリックエディターの湯浅誠さんは、「自社の働き方は取り上げられていない」として、「不都合な問題も取り上げて」と指摘しました。

 長時間労働で知られている記者の働き方も例外ではありません。すでに、見直し作業に着手しています。記事の発信が主に新聞紙面だった時代から、発信力の強化に取り組むデジタルの世界にも広がりつつあります。デジタル時代に適した組織の見直しとともに、働き方の「選択と集中」を進めることは、待ったなしの課題です。

 ただ、働き方が変わっても、「伝えるべきファクトを掘り起こす」という記者の役割は変わりません。そのための取材手法は多種多様です。トップダウンで「夜討ち朝駆け」に制限をかけるのではなく、政治、経済、社会部の取り組みのように、それぞれの出稿部や総局の実情に応じた見直しを進めます。

 昨年には、記者が提出した出退勤記録を上司が無断で書き換える問題が発覚しました。記者の健康管理のためにはあってはならないことであり、申請内容を文書で保存するなどの再発防止策をまとめました。引き続き、自社も含めて社会の「働き方」と向きあっていきます。

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