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 血液のがん「多発性骨髄腫」の治療薬が増えている。最近3年間で5種類が発売され、ラッシュを迎えている。治療の難しい病気ではあるが、薬の選択肢が増えたことで、治療の戦略も変わりつつある。ただ、新薬は高価なため、患者の経済的な負担が課題だ。

 千葉県市川市の中雄大輔さん(52)は2004年、勤務先の健康診断で、血液中のたんぱく質が多いと診断された。産業医から「多発性骨髄腫の疑いがある」と言われ、東京都内の総合病院を受診した。

 多発性骨髄腫は抗体を作る血液細胞「形質細胞」のがんだ。異常な抗体が大量にでき、異常なたんぱく質として血液中に出る。正常な血液を作れなくなり、貧血や骨折、腎臓障害や免疫機能の低下が起きる。

 一般的には、がんになった形質細胞である骨髄腫細胞や異常なたんぱく質が少なく、症状がなければ治療を始めない。ほぼ例外なく再燃し、早く治療しても生存率に差がないからだ。

 中雄さんも経過をみていたが、徐々に異常なたんぱく質が増え、1年ほどで治療開始の当時の基準を超えた。07年、国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)で治療を始めた。

 最初は、大量の抗がん剤で徹底的に骨髄腫細胞をたたいた後、自分の正常な造血幹細胞を移植する治療だった。よく効いたが、「再発したらどうしようと考えると気持ちが悪くなり、落ち込んで何も手につかなくなった」と振り返る。

 2年ほどで再び異常なたんぱく質が増えだした。10年、今度は多発性骨髄腫の治療薬として承認されたばかりだったサリドマイドを使い始めた。体の免疫機能を整えることで骨髄腫細胞の増殖を抑える薬だ。

 副作用などもあり、12年に薬を切り替えた。がん細胞が生き延びるのに必要な酵素の働きを妨げるプロテアソーム阻害薬ベルケイドだ。1年半ほどよく効いたが、再燃した。13年に再び、抗がん剤と造血幹細胞移植を組み合わせた治療を受けた。

 治療薬の変更はまだ続く。13年末からサリドマイドより作用の強い免疫調節薬レナリドミドと、ベルケイドを組み合わせた治療を開始。16年秋ごろからは、ベルケイドを新しいプロテアソーム阻害薬のカルフィルゾミブに変えた。

 「効かなくなったらどうしようという不安は今でもある。ただ、次々と新しい手が打てるので希望が持てる」と中雄さんは話す。

 複数の薬の組み合わせについて、国立がん研究センター中央病院血液腫瘍(しゅよう)科の福原傑医員は「治療歴や副作用など患者ごとに個別に判断する」と説明する。

 ■高額な医療費、課題

 近年、新薬が相次いで発売された背景には、骨髄腫細胞に関係する基礎研究の進展がある。日本赤十字社医療センターの鈴木憲史骨髄腫・アミロイドーシスセンター長は「抗体の製造に関わる情報伝達の仕組みや、不要なたんぱく質を分解する仕組みが詳しくわかり、そこを狙って薬をつくりやすい」と話す。

 新薬の登場で、80年代ごろまで発病後3年ぐらいだった生存期間が平均7年ほどに伸びている。さらなる新薬で今後10年以上になるとみられている。

 再発に備えて強い薬を温存しながら延命を図る従来の治療戦略にも変化が起き始めた。鈴木さんは、「最初から強力な免疫調節薬やプロテアソーム阻害薬を組みあわせ、総力戦で徹底的にたたくという考え方だ」という。

 だが、高価な新薬を次々と使うため、医療費が高騰している。日赤医療センターでは、多発性骨髄腫患者1人あたりの医療費が2006年の年間約200万円から、15年は500万円以上に増えたという。その約半分を新薬の費用が占めている。保険適用や高額療養費制度を利用することで、全額を支払うことにはならないが高額になりやすい。

 鈴木さんは「薬の効果で少なくとも2、3割の患者さんは、延命でなく治癒が今後の目標になってくるだろう。ただ、最新の検査技術で確実に効果のある治療薬を選ぶ工夫が必要だ」としている。(鍛治信太郎)

 <訂正して、おわびします>

 ▼12日付医療面「多発性骨髄腫 新薬ラッシュ」の記事で、「造血幹細胞」の表記の一部を「造血間細胞」と誤りました。変換ミスでした。

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