[PR]

 国際的な水銀規制ルールを定めた「水俣条約」が発効した。

 熊本県水俣市の工場が水銀を含む廃液を海に流し、周辺住民に深刻な神経障害などを引き起こしたのが水俣病だ。

 条約は前文で「水俣病を教訓とし、同様の被害を繰り返さない」ことをうたう。そして、一定量以上の水銀を含む製品の製造や輸出入を原則2020年までにやめることや、水銀廃棄物の適正管理を求めている。

 国連機関によると、アフリカや東南アジアなどの約20カ国で、不適切な処理が現に確認されているという。

 条約名や前文に「水俣」を盛りこむことを提案した日本政府は、国内の水銀管理に万全を期すのはもちろん、途上国に資金やノウハウを提供して、水銀禍の防止に貢献すべきだ。

 公害の原点とも言われる水俣病。その最大の教訓は、企業や社会は人や環境への負荷を無視して、そろばんずくで動いてはいけないということだ。

 水銀が健康に及ぼす害は、昔からある程度知られてはいた。だがそれ以上に、便利さが重宝がられ、損得が優先された。

 空に、川や海に、森や土に。無軌道な排出・投棄は、環境をそこない、食物や生物の汚染を招いた。健康被害は金銭であがなえないし、汚れた環境を元に戻すことは不可能に近い。

 近年、環境汚染にのぞむ姿勢は、被害を確認して補償などをする「後追い」から、早期発見と事前のリスク管理を柱とする「予防」へと変わってきた。

 また経済のグローバル化に伴い、規制は一国だけでは効果がなく、国境を越えたものにしなければならないという認識も定着してきた。先進国が規制を厳しくしても途上国が緩くては、途上国に公害を「輸出」することになりかねないからだ。

 こうした知見の積み重ねの上に、環境規制のためのさまざまな国際条約が結ばれ、地球規模の「環境倫理」が規範化されてきたことは評価したい。

 考えるべきは、その源となった水俣病が、まだ「終わっていない」ことである。

 いわゆる公式確認から60年を経てなお、患者の認定や損害賠償を求める動きが続く。司法が救済の不備を指摘しても、行政の対応は鈍く、たれ流された水銀を含んだ汚泥は、回収されないまま埋め立て地に眠る。

 条約の発効は、ひとつの区切りでしかない。

 水俣の教えを忘れてはいないか。人と環境を大切にする社会に向かっているか。真の、そして不断の点検が求められる。

こんなニュースも