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 8月17日の米国務省。トランプ政権下で初めて開かれた日米外務・防衛担当閣僚会合後の共同会見で、国務長官のティラーソンは「安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した」と強調した。

 日米安保条約第5条は米国の日本防衛義務を規定する。米国のクリントン国務長官(当時)が尖閣への『安保条約適用』を明言したのは2010年。だが、12年9月に日本が尖閣国有化に踏み切り、中国は公船や軍艦派遣で圧力を一気に強めた。危機感を募らせた日本政府は、日米間の会談などで「尖閣防衛」を約束するよう求め、米国もそれに応えてきた。

 防衛省幹部は「中国による恒常的な領海侵入に直面したことで、我々は対中戦略を練り直して防衛力拡大を図ってきた。同時に、『日本防衛』への米国の関与をどうつなぎとめるかに腐心した」と語る。

 これまで米側からの要求や圧力に応えて「受け身」に徹してきた日本が、独自に安保戦略を練り、「対等な同盟」を模索するようになったという点で、尖閣国有化は日本の防衛政策の転換点となった。

 5月1日、太平洋・房総半島沖周辺で海上自衛隊護衛艦「いずも」は米海軍補給艦と合流し、四国沖まで並走した。任務は、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対し、有事でなくても自衛隊が米軍艦船を守る「武器等防護」(米艦防護)。自衛隊発足以来初の任務は「日米一体化」の象徴となった。

 尖閣国有化の翌13年、日本政府は初めて「国家安全保障戦略(NSS)」を策定。基本的に「有事」でないと自衛隊は動けなかったが、中国の武装集団などによる尖閣上陸を念頭に、有事でもない「グレーゾーン事態」への対処の必要性を盛り込んだ。これが14年の集団的自衛権行使をめぐる憲法解釈変更の閣議決定、15年の新安保法制の整備につながった。18年ぶりに改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)は、日本側から初めて米国に見直しを持ちかけた。

 ■対中国、「二つの海」で

 中国の圧力を前に、強まる日米の連携は東シナ海のみならず、南シナ海も含めた「二つの海」で進む。米国は中国を牽制(けんせい)しようと、南シナ海で「航行の自由作戦」を展開。日本も、南シナ海沿岸国に巡視船を供与するなど、米国の戦略に貢献している。

 しかし、東南アジア諸国の立場は微妙だ。フィリピンはスプラトリー諸島を巡る領有権問題で中国と対立してきたが、ドゥテルテ政権は中国との対立を避け、尖閣問題でも沈黙を守る。安全保障アナリストのリチャード・ヘイダリアンは「口出しすれば、フィリピンが日中のいずれかの肩を持つことになる。沈黙が最善の戦略だ」と話す。

 中国は、南シナ海で岩礁を軍事拠点化する動きを進めてきた。しかし、海上自衛隊と在日米軍がにらみを利かす東シナ海ではそうはいかない。尖閣周辺で圧力を強めたことが、日本の防衛力拡大と日米安保の強化を誘引したジレンマもある。米国との決定的な対立を避けつつ、影響力を強めるぎりぎりの措置を模索する。

 中国政府に政策提言する研究機関の研究者はこう指摘する。「日米同盟が存在する限り、中国が武力で釣魚島(尖閣諸島の中国名)を奪うことは当面想定できない。しかし、争いが表面化した以上、後戻りはできない」

 =終わり(敬称略)

 (編集委員・佐藤武嗣、北京=西村大輔、ハノイ=鈴木暁子)

 <訂正して、おわびします>

 ▼15日付総合4面「検証 尖閣国有化5年(下)」の記事で、「米国が初めて尖閣への『安保条約適用』を明言したのはオバマ前政権下の2010年」とあるのは、「米国のクリントン国務長官(当時)が尖閣への『安保条約適用』を明言したのは2010年」の誤りでした。04年に国務省副報道官が会見で語るなど、米政府はオバマ政権以前にも安保条約適用に言及しています。 

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