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 国家公務員が仕事をする際、結婚前の旧姓を使うことを原則として認める。各府省庁がそんな申し合わせをした。

 職場での呼び名や出勤簿などの内部文書などについては、2001年から使用を認めてきたが、これを対外的な行為にも広げる。すでに裁判所では、今月から判決などを旧姓で言いわたせるようになっている。

 結構な話ではある。だが、旧姓の使用がいわば恩恵として与えられることと、法律上も正式な姓と位置づけられ、当たり前に名乗ることとの間には本質的な違いがある。長年議論されてきた夫婦別姓の問題が、これで決着するわけではない。

 何よりこの措置は国家公務員に限った話で、民間や自治体には及ばない。内閣府の昨秋の調査では、「条件つきで」を含めても旧姓使用を認めている企業は半分にとどまる。規模が大きくなるほど容認の割合は高くなるが、現時点で認めていない1千人以上の企業の35%は「今後も予定はない」と答えた。

 人事や給与支払いの手続きが煩雑になってコストの上昇につながることが、導入を渋らせる一因としても、要は経営者や上司の判断と、その裏にある価値観によるところが大きい。

 結婚のときに姓を変えるのは女性が圧倒的に多い。政府が「女性活躍」を唱え、担当大臣を置いても、取り残される大勢の人がいる。

 やはり法律を改めて、同じ姓にしたいカップルは結婚のときに同姓を選び、互いに旧姓を名乗り続けたい者はその旨を届け出る「選択的夫婦別姓」にしなければ、解決にならない。

 氏名は、人が個人として尊重される基礎であり、人格の象徴だ。不本意な改姓によって、結婚前に努力して築いた信用や評価が途切れてしまったり、「自分らしさ」や誇りを見失ってしまったりする人をなくす。この原点に立って、施策を展開しなければならない。

 だが安倍政権の発想は違う。旧姓使用の拡大は「国の持続的成長を実現し、社会の活力を維持していくため」の方策のひとつとされる。人口減少社会で経済成長を果たすという目標がまずあり、そのために女性を活用する。仕事をするうえで不都合があるなら、旧姓を使うことも認める。そんな考えだ。

 倒錯した姿勢というほかない。姓は道具ではないし、人は国を成長・発展させるために生きているのではない。

 「すべて国民は、個人として尊重される」。日本国憲法第13条は、そう定めている。

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