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 第2次安倍政権の発足以来、「アベノミクス」をめぐる議論が間断なく繰り返されてきた。政権は成果を誇り、「加速」が必要だと主張する。一方、野党からは「実感がない」「失敗した」との声があがる。

 アベノミクスという言葉自体は「安倍政権の経済政策」という意味しかない。内容は多岐にわたり、力点の置き方も変わってきている。衆院選は、その内実を見極める機会でもある。

 ■当初目標は未達成

 2012年末の就任時、安倍首相は「強い経済を取り戻す」と訴え、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略」を掲げた。この「3本の矢」自体は、不況時の標準的な政策といえる。

 その後の5年間、円安を起点にした企業の収益改善に加え、雇用も好転し失業率は大きく下がった。どこまでが政策の効果か、厳密な論証は難しいが、景気が回復したのは確かだ。

 ただ、賃金と消費の伸びはいまだに勢いを欠く。物価上昇率2%というデフレ脱却の目標は実現のメドがたたない。経済の実力を表す潜在成長率も、微増にとどまっているようだ。

 その結果、「10年間の平均で名目3%、実質2%」という当初の成長率目標の達成は見通せないままだ。

 一方で、異次元の金融緩和政策を担った日本銀行は、巨額の国債を抱え込み、将来の金利上昇時に大きな損失を抱えるリスクを膨らませている。

 国の財政も、赤字幅は一定の改善をみたが、基礎的収支の黒字化は先送りに追い込まれた。高齢化による負担増の加速が見込まれる25年以降の長期的な見通しもたっていない。

 政権は「アベノミクスは道半ば」と説明してきた。「新3本の矢」「働き方改革」などとスローガンを変え、自民党の選挙公約は「生産性革命」と「人づくり革命」を打ち出している。

 だが、足元の限界を直視せず、看板の掛け替えを繰り返しながら勇ましい表現を連ねるだけでは、進展は望めない。

 ■鈍い賃上げどうする

 企業が空前の利益をあげているのに、賃金は伸びない。それが経済の循環を滞らせているのなら、働き手への分配を渋る企業の判断が問われる。

 安倍政権は、法人税減税などを通じて経済界との蜜月を築いてきた。賃上げも求めたが、基本的には「アメ」の政策だ。それが十分な結果を出せていない現状を変えられるのか。

 政権は、企業の生産性向上を促すことで賃上げを後押しするというが、具体的な議論はこれからだ。しかも民間の取り組み次第の面が強く、時間もかかる。足元の分配不足の解決は、先送りされかねない。

 そもそもアベノミクスが掲げた経済再生は、成長の回復が主眼で、当初は分配の視点がほとんどなかった。次第に働き手や低所得者により配慮するような姿勢も見せ始めたが、成長力を高める一環といった位置づけが強く、分配面で社会的公正をめざす視点はいぜんとして弱い。理念を伴わず、野党の主張を横目に、政策をつぎはぎしているだけにみえる。

 例えば、税制である。

 政権は10%への消費増税を実施した上で、教育や社会保障分野に厚めに振り向ける方針を打ち出した。公正・公平を目指すなら、所得税や相続税の強化など再分配に関わる改革も欠かせないはずだ。しかし、本格的に取り組む姿勢は一向にうかがえない。

 ■大切な「分配」の視点

 最大野党の希望の党の公約も混沌(こんとん)としている。

 「民間活力を生かした経済の活性化」を前面に出す一方で、内部留保課税といった企業に厳しく見える提案も掲げる。企業にたまった資金の有効利用についての問題提起としては理解できる部分もあるが、今の大まかな提案では実現性や実効性は評価できず、働き手への分配増をめざしているのかも不明だ。

 また、消費増税凍結を主張しつつ金融・財政政策に「過度に依存しない」とも言うが、めざす方向性が読み取れない。

 共産党や立憲民主党は格差是正や社会保障の充実を掲げ、分配面重視の姿勢をとる。だが、逆に成長をどう維持するのかという視点は希薄だ。

 世界的に技術革新とグローバル化が進み、国内では未曽有の高齢化と人口減少に直面する。経済成長による「パイ」の拡大とともに、その分配の視点が一段と大事になってくる。

 雑多な政策を「○○ノミクス」という名ばかりの風呂敷でくるむだけでは、問題解決には力不足だ。

 個々の政策を貫く、経済社会についてのビジョンがなければ、何を優先するかが混乱したり、修正が必要なときに対応を誤ったりしかねない。

 成長と分配についてどんな見取り図を描いていくかが、何よりも問われている。

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