[PR]

 ■地域の力で水を守る 危機を乗り越える熊本の取り組み

 阿蘇山を代名詞に「火の国」と言われてきた熊本。実は「水の国」でもあるという。たくさんの人が地下水をいかしているからだ。しかし、昨年4月に最大震度7を観測した熊本地震があり、枯れた場所もあるという。地下水の有効活用を持続可能にするには、どうすればよいのだろうか。

 国内外の地下水の循環を研究している市川勉・東海大学熊本教養教育センター教授は「水の国の豊かさ」をデータで示した。「熊本市を中心とした11市町村の約100万人が同じ地下水を飲んでいる。これは世界的にみてもまれな例」。県内には千カ所以上の湧き水があるという。

 政治学者として大学の教壇に立ち、メディアでも多彩な情報発信を続けてきた姜尚中さん。出身は、その熊本市だ。「水道をひねって渇いたのどを潤し、水道を開けっ放しでも、あまり痛痒(つうよう)を感じない。熊本では水が空気みたいなもの」と、体験をもとに話した。

 ただ、減反による水田の減少で、地下水の量は年々減っていった。それを何とか食い止めているのは、市川さんらが音頭を取った湛水(たんすい)事業だ。転作田に作物が植わっていない時期に1カ月以上、水を張る。企業も積極的にかかわっている。

 熊本地震の影響はどうだったのか。「湧き水が枯れたところもあれば、新たに湧き水が出たところもある」と市川さんは指摘する。「枯れた場所は、地震で大きな亀裂が入ったり、崖崩れが発生したりしたところに多い」

 討論のコーディネーターを務めた市村友一・朝日新聞社執行役員(企画事業担当)は「人間が枯れた湧き水を再び戻すことも、たくさん出ている湧き水を他に誘導するのも難しい」として、姜さんに復興のあり方をたずねた。

 姜さんは共同通信の企画で、東北や阪神など全国の被災地を回って、論考を発表している。

 「地域の特性を十分考慮せずに、一律の処方箋(せん)を作ったり、標準的な方法を当てはめたりしていくと、もっと疲弊していくのではないかという印象をもっている」

 そのうえで、こう提言した。「地域経済は自然の営みから作られ、水も含めた色々なものが複合してひとつの社会ができている。それにフィットした復興を考えていかないと、半世紀経ったときに、美しい四季のある日本の国土の中で、かなり荒れてしまう地域が増えていくのではないか」

 ■地域に根ざす視点を

 熊本になぜ「肥」後の字があてられたのか。「土地が肥え、日当たりがよく、物成りが豊かだったというこの土地の印象と無縁ではあるまい」と、司馬遼太郎さんは「街道をゆく」(肥薩のみち)に書いている。

 その豊かさの象徴だった熊本の地下水の水量は、戦後の都市化と減反による水田の減少で減り続けた。それを企業と農家、研究者、自治体による独自の湛水事業が食い止めた経緯を知ると、地域に根ざした知恵と工夫の大切さがわかる。熊本地震からの復興でも、その視点を大事にしたい。

 (執行役員・市村友一)

こんなニュースも