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 新国立劇場(東京都渋谷区)がこの秋、開館20年を迎えた。オペラ、舞踊、演劇の3部門が、それぞれ芸術監督を軸に国内トップレベルの舞台を作る。議論百出の話題作もあったが、近年は公演費減少で守りの姿勢が強まる。国際的知名度アップも課題だ。(星野学、安部美香子、江戸川夏樹)

 ■「強い個性の総監督必要」

 1997年10月、現代の舞台芸術を上演する場として開館した。国立劇場(同千代田区、66年開館)は日本の伝統芸能をカバーする。

 子供向け公演を含む2016年度の演目数は、オペラが12演目55公演、舞踊が11演目46公演、演劇は7演目146公演。公演費21億円の59%をオペラが占め、舞踊は23%、演劇が18%。毎年おおむねこの傾向だが、公演費はピークの01年(34億円)に比べ6割に。不況に伴う収入減少が背景にある。

 国からの受託収入は、00年度の55億円から16年度は40億円に。寄付金等は02年度の7億5千万円から16年度は4億6千万円まで減り、収入のもう一つの柱である入場料の重みが増した。新国立劇場運営財団の村田直樹常務理事は「お客様の入りを気にせざるを得ず、冒険がしにくい」と話す。

 歌手やオーケストラなど演者を一通り抱える海外の劇場と違い、新国立劇場の「座付き」は合唱団とバレエ団だけ。オペラの歌手や演劇の俳優は演目ごとに選ぶ。部門ごとにある研修所からは、ソプラノ歌手中村恵理のように国際的に活動する修了生も出てきた。

 運営トップの理事長は、文部科学官僚出身者か財界人が務めてきたが、欧米の劇場トップのインテンダント(総監督)は劇場を渡り歩く運営のプロだ。国内外の劇場運営に詳しい神戸大学の藤野一夫教授(文化政策)は、「世界トップレベルの劇場と渡り合うなら、強い個性を持ったインテンダントは必要。ただ、権限を一人に集中させることを好まない日本の行政機構では難しいのでは」とみる。

 海外の劇場のような観光名所にはまだ遠い。ツアーで訪れる外国人は少なく、英語サイト経由で入場券を購入する外国人(年間約千人)のうち、6~7割は日本在住者という。

 ■最先端への挑戦不足 オペラ

 「ムツェンスク郡のマクベス夫人」「ヴォツェック」などは国際水準として評価が高い。とりわけワーグナーの「ニーベルングの指環」(01~04年、キース・ウォーナー演出)は映像も用いたポップアート風舞台で、「賛否がせめぎ合う最先端のおもしろさが垣間見えた」と音楽評論家の堀内修さん。「その最先端が今、弱い。中庸を行きすぎ、世界に伍(ご)する状況ではない」

 音楽評論家の東条碩夫さんも「長い目で見るべきだが、期待したよりは画期的な舞台は少ないし、舞台もお客も冷めている」と語る。

 海外では常識の専属オーケストラはない。ただ、ピット入りするオケが次第に増え、オペラの経験が各楽団に蓄積された面もある。

 歌手は「国境は置かず水準が高いかどうか」(飯守泰次郎芸術監督)で選び、結果として主役級は外国人が目立つ。一方、国内のオペラ団体には「日本人歌手のレベルは上がっている。責任ある役を歌わせ育てるべきだ」(折江忠道・藤原歌劇団総監督)という意見が強い。

 ■自前のスター主役に 舞踊

 バレエと現代舞踊の公演を手がけており、主にバレエに出演する劇場バレエ団の技量は、国内最高レベルとの声が高い。定評がある群舞に加え、自前のスターを主役に据えた「日本人によるバレエ」を定着させつつある。この夏の「ジゼル」では小野絢子、米沢唯(ゆい)、木村優里が三者三様の表現で主役を踊った。

 オリジナル演出に力を入れた牧阿佐美芸術監督(1999~2010年)に続き、デビッド・ビントレー監督(10~14年)は現代ものにレパートリーを拡大。今の大原永子(のりこ)監督は「興行的な安定とダンサーの技能向上のため」古典を中心にした作品選定にかじを切った。結果、16年度の舞踊公演全体の有料入場率は89・7%で、オペラ、演劇を抑えてトップだ。

 こうした方針には批判もある。舞踊評論家の山野博大さんは「国立バレエ団の使命は、舞台から刺激を与えて次世代に新しい発想を喚起すること。集客優先は民業圧迫になる」と話す。

 ■地方公演に注力 演劇

 地方公演に力を入れる。10月からの1年間に制作する8本のうち、7本が、福岡、広島、富山、新潟などで上演される予定だ。小さなホールで上演できるよう装置がトラック1台ほどで済む作品も作る。

 宮田慶子芸術監督は「芝居を見る文化の醸成」を目指す。戯曲の読み方を教えたり、演出家が舞台裏を語ったりする無料の「マンスリープロジェクト」はまもなく100回に達する。かつての国内外の名作を現代語に変えた新訳戯曲の書籍化も進めている。

 演劇評論家の大笹吉雄さんは、00年代の井上ひさし作「東京裁判三部作」、韓国と共同制作し演劇賞を総なめにした鄭義信作「焼肉ドラゴン」などを挙げ、「前半10年ほどは国立ならではの作品や挑戦が見られた」と語る。

 だが、「近年は翻訳劇中心で劇作家を十分に育てられていない」(都内の劇団関係者)との声もある。

 <訂正して、おわびします>

 ▼3日付文化文芸面「新国立劇場、難しい冒険」の記事で、寄付金等について2016年度は「2億9千万円まで減り」とあるのは、「4億6千万円まで減り」の誤りでした。確認が不十分でした。

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