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 最近よく聞く「ファクトチェック」。政治家らの発言が事実に基づいているか検証し、信用度を評価するジャーナリズムの手法です。

 朝日新聞では昨年10月24日付朝刊2面掲載の「首相の答弁 正確? 臨時国会中盤」に始まり、今年2月からはファクトチェックコーナーを作って、政治家の発言を随時取り上げています。衆院選が行われた10月には、9本の記事が掲載されました。読者からは「待ち望んでいた」「面白い試みだ」など評価する声と、「記事のファクトチェックが必要」「2014年に誤報問題があったのにおこがましい」という批判が寄せられました。

 ファクトチェックの取り組みについて昨年9月から1年間、政治部で国会取材班の出稿窓口を務めていた隅田佳孝デスクと、今年9月に後任に就いた林尚行デスクに話を聞きました。

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 ――きっかけは?

 隅田 米国留学から戻り、昨秋に国会取材班のキャップ(現場取材記者のリーダー)になった記者が、米大統領選でのメディアの取り組みを日本でもできないかと提案した。

 ――どんな体制で始めたのか?

 隅田 国会担当記者3人を中心に即時作成した国会の議事録を読み、与野党問わずにチェックした。答弁は官僚が書くのでデータの間違いはあまりないが、丁々発止になると政治家が自分の言葉でしゃべり、落とし穴が出てくる。林デスクに交代後、言葉の真贋(しんがん)を見極めるファクトチェッカーを増やし、対象も選挙中の会見や街頭演説などの言葉になった。

 ――なぜ選挙に注目したのか?

 林 政治家の言葉がとがっているのは選挙。着任時点で予定されていた衆院の3補選での発言をチェックしようと提案し、準備を始めたところ衆院の解散がぶつかってきた。

 ――ファクトチェックの流れは?

 林 記者たちの選挙取材メモを集約し、各部の記者や編集委員ら23人からなるチェッカーに渡す。「この発言はおかしい」と指摘されたものから数を絞り、チェッカー会議にかけて意見を出し合う。次にチェッカーが、記事の候補に挙がった発言について、事実に基づいているかどうかを○×△で評価した原稿を書く。それをチェッカーたちが輪読し、同時に政治部のデスク以下十数人の記者で議論。さらに紙面の最終責任者であるゼネラルエディターらの議論を経て掲載。これを3~4日、短いと1日で行う。

 ――ファクトチェック体制によって組織に横串を刺したということ?

 林 様々な出稿部がある新聞社は、たこ壺(つぼ)的になっている印象があった。何とか縦割りを崩したかったので、これが一つの仕掛けになればと思う。取材メモを共有することで、例えば大阪での松井一郎・府知事の演説を、復興庁の担当記者が読むことも。従来はなかったことだ。

 ――取り組みを評価する読者の声が多かったが、批判もある。

 隅田 14年の吉田調書報道は、取材チームが情報を独占したことによる間違いだった。事実を多角的に見ることを怠った。ファクトチェックへの取り組みは、新聞社が権力監視の役割を果たすためにも必要だ。

 林 吉田調書報道をめぐる問題で指摘されたような体質の改善・改革の必要性は、政治部も例外ではない。ファクトチェックで組織に横串が刺されて、開かれた組織でいいものができるのなら、それは吉田調書報道をめぐる批判に対する、現場からの一つの回答ではないかと思う。

 ――ファクトチェックは読者にどのような利益があると思うか。

 隅田 自分たちが選んだ政治家が何を話しているのかを知り、政治を政治家に任せっぱなしにしないための一つのきっかけになればと思う。

 林 政治家は信念を語ったり、場を取り繕ったり、言葉を語り分ける。言葉には国民に対するまなざしも表れる。それを読み解けば、誰に政治を託すべきかの判断材料になる。

 ――「発言者にファクトチェックの結果を突きつけては」という読者の意見もあった。

 林 記事が出た直後、希望の党の小池百合子代表(当時)ら政治家の発言が変わった事例はある。今後はそうした事後の検証取材もしないといけないと思う。

    *

 国民を言いくるめたり、気をそらしたりするような政治家の物言いを許さず、事実に基づいた建設的な議論を促すために、ファクトチェックは必要です。また、これを機に組織横断的な記事作りが進めば、様々な立場の記者が事実を複数の視点で見る習慣がつき、結果として誤報を防ぐことにもなります。今後は人員を増やすなどして、ファクトチェックコーナーの常設化を検討するべきだと思いました。

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 こじま・けいこ エッセイスト。1972年生まれ。TBSに勤務、2010年退社。近著に「ホライズン」「るるらいらい『日豪往復出稼ぎ日記』」など。

 

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