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 被告に認知症の疑いがある場合、審理をどう進めるべきか。重い課題を突きつけた刑事裁判だった。

 青酸化合物による連続不審死事件で殺人罪と強盗殺人未遂罪に問われた筧(かけひ)千佐子被告(70)に、京都地裁は今月7日、死刑を言い渡した。精神鑑定で、被告は「軽症のアルツハイマー型認知症」と診断された。

 計38回にわたった公判で、被告は「私が殺(あや)めた」と述べながら、「殺したイメージがわかない」とも発言。裁判員から反省の意思を問われ、「失礼です」と激高する場面もあった。

 弁護側は「訴訟能力も責任能力もない」として、無罪を主張していた。判決は、犯行時に善悪を判断する責任能力があり、訴訟能力も問題ないと結論づけた。弁護側は控訴した。

 審理には6人の裁判員が加わった。求刑は極刑だ。結論を導くのは難しかったに違いない。

 判決後、会見に応じた裁判員は「認知症に関しては、専門の先生がある程度結論を出さないと判断しにくい」と述べた。

 重く受け止めたい。

 罪を犯して刑務所に再び入る率が、他の年齢層に比べて高いのをどう下げていくか、そのために刑務所内外でどんな支援が必要かなど、高齢化で司法が直面する課題は多い。捜査・公判段階では、被告が自らの立場を防御する権利にかかわり、早急に対策を考える必要がある。

 法務省の統計では、交通事故などを除き、昨年起訴された約11万8千人のうち65歳以上は約11%を占めた。10年前は約5%で、被告の高齢化は進む。

 10月、介護していた長男を殺害したとして殺人罪に問われていた80代の女性について、大阪地検が公訴を取り消した。精神鑑定で訴訟能力に疑問がもたれて公判を停止し、これからも回復の見込みがないと判断した。

 今後、裁判員が認知症やその疑いがある被告と向きあい、判断を迫られる事例が増えるだろう。公判中に認知症が悪化することも考えられる。医療関係者がより裁判にかかわる仕組みなど、十分な判断材料を提供する工夫が今以上に求められる。

 刑事事件の精神鑑定に関わる慶応大医学部の村松太郎准教授は「被告の症状がどの程度であれば、訴訟能力があると認めるのか。司法の要請に応えられる態勢を医学界がとれるか。実務者がコミュニケーションを深める必要がある」と話す。

 各地の裁判所や検察、弁護士会が精神科医を交えた議論の場を設けるなどして、まず課題を共有することが急務である。

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