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 ■きょうの授業 エスカレーター事故を防ぐ

 エスカレーターで頻発する歩行者の事故を防ぐには、どうしたらいいのでしょう。学生たちが利用者や施設、メーカーなどの話を聞き、思わず立ち止まってつかまりたくなるような手すりを考案しました。その効果は――。

 ■デザイン工夫し歩行抑制

 「ぎゅっ」

 紫色の丸の中に、クリーム色でこんな文字が描かれていた。今年10月、東京都品川区にある商業施設「アトレ目黒1」に期間限定で設置されたエスカレーターの手すりだ。手すりの背景色はオレンジ。文字だけでなく、ネコやウサギ、タヌキなどの動物の顔のイラストも交互に並ぶ。

 デザインを考案したのは、文京学院大学(東京)の経営学部でマーケティング戦略を研究する新田都志子教授のゼミ生ら3年生6人。

 関東地方の都市部では、エスカレーターの左側に立ち、右側は急ぐ人のために空けることが、暗黙のマナーのようになっている。左側が混雑して長蛇の列になり、右側はすいていることが少なくない。「2列に並んだ方が効率的ではないかと思い立って、今春から調べ始めた」と、3年生でゼミ長の佐久間百花さん(20)は言う。

 だが、調べていくうちに、エスカレーターでの歩行が事故につながりやすいことに気づいた。

 一般社団法人日本エレベーター協会の調査によると、エスカレーターの事故の原因の7割近くが「転倒」だった。エスカレーター事故で担架や救急車などで運ばれた人は2011年に1196人だったが、15年には1416人に増えている(東京消防庁調べ)。

 エスカレーターで歩くから、転倒などの事故が起きているのではないか。そう考えた佐久間さんらがメーカー3社に問い合わせたところ、「エスカレーターは構造的に歩くようには設計されておらず、歩くと故障しやすくなる」といった回答だった。

 鉄道会社は、「エスカレーターで歩かないで」と訴えるポスターを作製したり、安全週間で注意を呼びかけたりしている。だが、社会に十分浸透していないのでは、と学生らは感じたという。

 転倒事故などを防ぐためにも、思わずつかまりたくなるようなエスカレーターの手すりをつくりたい。そう考えた学生らは、手すりのラッピング広告などを作るアサイマーキングシステム(川崎市)に製作の協力を依頼。デザインは学生が担当し、効果について結果を提供することを条件に今年8月、共同プロジェクトが始まった。

 ゼミ生らは他学部の学生たちの協力も得ながら、約80種類のデザインを考案。同社社員とミーティングを重ね、「ぎゅっ」という擬声語と動物のイラストを交互につけたデザインに決まった。

 鉄道会社や商業施設など228社に設置の協力を呼びかけると、「アトレ目黒1」や成田空港など6社から前向きな回答があった。アトレ目黒1では、10月12日から同月31日までエスカレーター1基で設置することになった。

 設置前には、手すりの利用者は1日あたり240人だったが、設置後は258人に。歩行者は、41人から37人と約9・8%減った。利用者からも「『ぎゅっ』と書いてあったから、思わずつかまった」などの声が寄せられたという。

 佐久間さんは、「ビジュアルで訴えるのが効果的だと思った。他の施設でも設置する場合、景観にあったデザインにしていきたい」と話す。

 アトレ目黒1での学生らの取り組みは今月3日、今年度の「社会人基礎力育成グランプリ」の関東地区予選大会で準優秀賞を受賞している。

 ■外国人多い空港でも検討

 成田空港でも、同大の学生らが考案する「思わずつかまりたくなるエスカレーターの手すり」の試験的実施を検討している。

 空港につながるJRなどの改札口があるのは地下1階。チェックインカウンターの4階まで、エスカレーターで上る必要がある。多くの荷物を持っての移動になるため、事故対策が課題の一つになっていた。

 同空港管理事務所によると、空港内のエスカレーターと「動く歩道」での転倒件数は今年4月から11月上旬までで30件。このうち3件は、エスカレーターに乗っている時に持っていたスーツケースが落下して、下の人がけがをしたケースで、病院に搬送された人も1人いた。

 同空港では今春「ユニバーサルデザイン推進委員会」を立ち上げ、2020年東京五輪に向けて、だれもが利用しやすい空港にする取り組みも始まっている。こうしたことから、学生らとの共同プロジェクト化も検討する。

 空港は外国人利用者も多く、エスカレーターの手すりは文字より絵でアピールしたい、と空港運用部門施設保全部の機械グループ副主幹の川島光豊さんは言う。「エスカレーターのステップに2人が横に並ぶような足跡マークを記したり、つかまりやすい手すりのデザインにしたりするなど、学生たちと一緒に工夫していきたい」(平山亜理)

 ■<ここが大事>ニーズ知り解決につなげて 文京学院大学経営学部・新田都志子教授

 社会の問題をマーケティングで解決するのが、このゼミの目的です。ゼミでは3グループに分かれて、「食品ロス」や「若い女性の運動不足」の問題も扱いました。

 マーケティングというと、企業が消費者に商品を購入させるための「モーケティングだ」などと批判する人や、「学問ではない」と言う人すらいます。でも、「もっとこうしたらいいのに」という生活者のニーズを拾い、問題解決につなげていく、社会の役に立つものなんです。学生たちも今回、机上の勉強だけでなく、理論を生かしつつ、行動力で形にしていってくれました。

 <訂正して、おわびします>

 ▼17日付教育面「エスカレーター事故を防ぐ つかまりたくなる手すりに」の記事で、手すりを設置した後、エスカレーターの歩行者は「41人から37人と0・8%減った」とあるのは、「約9・8%減った」の誤りでした。

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