[PR]

 被害者に真摯(しんし)に向きあおうとしない水俣病行政の一端が、明らかになったと見るべきだ。

 水俣病と認定されなかった男性の不服申し立てを受けた国の審査会側から、裁決の見通しが環境省側に漏れていたことが、朝日新聞の取材でわかった。

 審査会は公害健康被害補償法にもとづき、独立して審査にあたる機関だ。委員の選任には国会の同意が必要で、身分は法律で手厚く保障されている。

 その機関が関係する当事者に判断内容を事前に漏らしては、公平性も中立性も期待できない。審査会は大気汚染や石綿被害などについても、個別の認定や補償の当否をチェックする任務を負う。環境行政全般に対する信頼は大きく傷ついた。

 にもかかわらず、中川雅治環境相の認識は極めて甘い。

 きのうの会見で「そういう事実は現時点では確認できなかった」と述べるだけで、詳しい説明を拒んだ。このまま年末年始の休みに入り、うやむやにしようという考えか。審査会の佐脇浩会長が、繰り返しの取材申し込みに一切答えないのも、無責任のそしりを免れまい。

 記録によると漏洩(ろうえい)があったのは15年1月。当時、水俣病の認定行政は微妙な段階にあった。

 13年春、最高裁が国の基準よりも幅広く患者と認めて救済する判決を言い渡し、審査会もそこで示された考え方を追認。環境省は14年春に要件を一部改めた「通知」を出した。

 だがこの通知は、最高裁判決を踏まえたように見せながら、実際は認定のハードルを下げない内容で、患者団体や専門家から厳しい批判が寄せられた。

 審査会の次の裁決が、最高裁判決と通知のどちらに沿った判断になるのか、注目が集まるなかで情報漏れがあった。

 また、この時までに環境省側から審査会委員への「説明」がたびたび行われたことや、漏洩直後に森本英香官房長(現事務次官)が、熊本県の蒲島郁夫知事に会い、「(裁決は)通知の考え方は踏まえた形にしてくれる。会長が内々に言っている」と伝えたことも、今回の取材で明らかになっている。

 水俣病をめぐる混乱は一向に収束せず、最近も新潟水俣病訴訟で、原告9人全員を患者と認定する東京高裁判決が言い渡された。根本にあるのは、司法から何度となく問題を指摘されながら、認定のあり方を改めない行政のかたくなな態度だ。

 今も2千人が患者と認めるよう声を上げ、1500人が裁判を続けている。この現実を、政府は直視しなければならない。

こんなニュースも