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 半年先の世界がどうなっているのかさえ思い描くのが難しい。混迷の年明けである。

 最大の要因は今月で就任1年を迎えるトランプ米大統領だ。就任すれば大統領らしく振る舞うようになるのでは――そんな期待はすっかりしぼんだ。

 「米国第一」をかかげるトランプ政権の外交に、世界は揺れている。貿易や環境問題など、長年積み重ねられた国際枠組みからの米国の離反が続く。

 かつて「世界の警察官」ともいわれた秩序の守り手・米国がいまや、先が読めぬ不確実性の象徴になりつつある。

 多国間の協調を軽んじ、二国間の取引で利益を引き出そうとする。そんなトランプ流の秩序が広がれば、どんな世界が姿を見せるのか。国際社会は大きな岐路に立っている。

 「自国第一」を露骨に追い求めるのは、トランプ氏だけではない。米国の隙をつくように機敏な動きを見せるのが、中国やロシアの独裁的な指導者だ。

 ■揺らぐ多国間協調

 習近平(シーチンピン)国家主席は昨年の共産党大会で国内の足場を固め、東南アジアや欧州、アフリカ、中南米までほぼ全方位で関係強化を進めている。

 プーチン大統領は、3月の大統領選で4選確実だ。中東ではシリアの和平交渉を主導するのを手始めに、米国を上回る存在感を得ようとしている。

 欧州では、地域統合をめざす流れが衰え、欧州連合(EU)の理念を否定する政党が支持を伸ばしている。英国は離脱に歩を進め、ドイツでは昨年の総選挙で右翼政党が躍進した。メルケル首相は新内閣を発足できないまま年を越した。

 多国間の枠組みから手を引くのは米国だけではない。民主主義と自由を掲げ、国同士の垣根をなくす理想の先導役とされていたEUも、ふらついている。

 移民・難民の流入、テロの恐れ、産業の国外移転など、国の門戸を開くことによる負の側面を強調する政治家の声が依然、勢いづいている。多くの主要国で既成政党が低迷し、扇動的なポピュリズムがめだつ。

 ■問われる民主主義

 だが、ドイツ出身の政治学者ヤンヴェルナー・ミュラー氏は、ポピュリズムの本質は「自分たちだけが正しい国民の代表だ」と主張する「反多元主義」にあると、警鐘を鳴らす。

 社会的に優越的な地位にあるべき「われわれ」と、無視してよい「彼ら」。国民と移民。自国と他国。幾重にも壁を築き、分断を広げる先にあるのは歴史が繰り返した争いしかない。

 「力による平和」を新たな安保戦略に据えたトランプ氏の世界は、まるで19世紀のようだ。大国同士が力を競い、覇権を争う先には、だれも望まなかった2度の世界大戦があった。

 19~20世紀前半の過ちを繰り返さず、ポピュリストが乱立するディストピアでもない世界に向かう道はどこにあるのか。各国の政治の質が問われている。

 冷戦終結以降、当然視されてきた自由市場主義や代表制民主主義が、今ほど不安感をもって論じられている時はない。

 低成長と財政難の中、国民が不満を高める経済格差をどう是正するか。多様化する人々の利害を調整する、より良い民主主義とはどんなかたちか。

 難問の答えは少なくとも強権による政治の効率化でも、排他主義でもない。国内外の他者への想像力を働かせ、国際協調の枠組みを広げ、各国の互恵的な利益拡大を進めるしかない。

 米国への信頼が薄れる今、その責務は国際社会全体に、より広く、重く、求められている。

 ■日本の外交力向上を

 その中で、日本の進路をどう見いだすか。周辺国をはじめ地球規模で意思疎通を深め、世界の潮流の中で日本の安定と発展を探る外交力が必須条件だ。

 眼前には北朝鮮問題がある。「完全な破壊」のかまえも示すトランプ氏に、安倍首相は歩調を合わせるが、北朝鮮の脅威の質は日米では異なる。

 決して武力行使は選択肢たりえない。中国、ロシア、韓国をまじえた交渉による長期的な軟着陸がめざすべき道だ。

 より長期的な課題は、成長する中国を取り込んだ平和的な秩序をどう築くかだ。対米牽制(けんせい)を強めるロシアとの関係も含め、日本が身に備えるべきは、冷静な情勢分析にもとづく多角的な外交交渉能力である。

 米国は昨年、宗教都市エルサレムをイスラエルの首都として一方的に宣言し、国際的に孤立した。国連の場で日本が米国に寄り添わず、多数意見の側についたのは当然の判断だった。

 対米同盟の一本足外交は危うい。米国との関係は生かしつつ、自立した思考で世界を見つめ、平和志向の経済大国ならではの外交力を磨くときだ。

 日本は、大戦後に築かれた安定秩序の恩恵を受けて発展を遂げた国である。多国間協調が危ぶまれる今、国際結束の価値を支える責務はとりわけ重い。

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